私は、その本当の理由を医療費削減だと考えています。 

 総合診療医の議論が始まったのは1980年代です。当時、医師誘発需要説・医療費亡国論が議論されていました。厚労官僚の友人は、「一人の医師が複数の専門領域を診ることができれば、医療費は抑制できると考えたようだ」と言います。

 このように考えるのは、我が国に限った事ではありません。経済協力開発機構(OECD)は「健康増進のための最も費用対効果が高い方法はGeneral Practitioner によるプライマリケアである」と述べています。総合診療医を推進する理由は、患者満足度ではなく、金ということになります。

 医師不足が社会問題化したため、厚労省にとって、総合診療医の価値がさらに上がりました。総合診療医を育成すれば、医師不足を緩和できるかもしれないと考えているからです。つまり、総合診療医推進は、専門医偏重の医療界、特に大学に疑問を持つ医師と、医療費抑制や医師不足対策を進めたい厚労省の思惑が合致した結果と考えられるのです。

 我が国の財政状況を鑑みれば、確かに医療費抑制は課題の一つでしょう。私も、総合診療医を増やすことが医療費の抑制に貢献する可能性は十分にあると思います。ただし、これはあくまで政府の視点です。これが国民にとって、本当にいいことかはわかりません。

 この問題を考える際には、正確な情報を国民と共有し、オープンに議論すべきです。

※『病院は東京から破綻する』から抜粋

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上昌広

上昌広

上昌広(かみ・まさひろ)/1968年生まれ。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所理事長。医師。東京大学医学部卒。虎の門病院や国立がんセンター中央病院で臨床研究に従事。2005年東京大学医科学研究所で探索医療ヒューマンネットワークシステムを主宰。16年から現職。著書に病院は東京から破綻する(朝日新聞出版)など

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