松坂世代以外にも、かつてのタイトルホルダーが苦しんでいる。2010年に日本記録となるシーズン47ホールドをマークし、翌2011年には中継ぎ投手ながらMVPにも輝いた浅尾拓也(中日)もここ数年は故障続きだ。2016年にはプロ入り初の一軍登板0に終わり、昨年も終盤に復帰したものの、わずか4試合の登板で打ち込まれる場面が目立った。端正なマスクと華々しい活躍から地元ではいまだに絶大な人気を誇るが、今年も過去2年と同様の状態であれば契約更新は難しいだろう。

 2011年、2012年と2年連続最多勝に輝いた内海哲也(巨人)も過去3年間で13勝と低迷が続いている。大きな故障があるわけではないが、球威の低下によってかつてのスタイルが通用しなくなっている印象を受ける。チームが急激に世代交代を進めていることもあり、生え抜きの元エースも戦力として見極められる立場であることは間違いない。

 2007年に最優秀防御率と最高勝率のタイトルを獲得した成瀬善久(ヤクルト)もFAで移籍した2015年から一気に成績を落とし、昨年は0勝に終わって、オフには1億円以上の年俸ダウンとなった。かつては130キロ台のストレートでも面白いように空振りを奪っていたが、フォームもボールも年々キレを失っている。内海と同様にかつてのスタイルでは厳しいのは明らかであり、復活のためにはモデルチェンジが必要だ。

 野手では2010年に首位打者と最多安打のタイトルを獲得し、盗塁王にも2度輝いている西岡剛(阪神)も危うい立場だ。2016年、左アキレス腱断裂の大けがを負い、昨年夏に何とか復帰したものの攻守とも精彩を欠く結果に終わった。内野も外野も若手が台頭しており、存在感は年々薄れてきているだけに、勝負強さなどでベテランらしさを見せないと苦しいだろう。

 年齢などを考えると、どの選手も厳しい状況だが、過去に崖っぷちから這い上がった選手が存在していることもまた事実である。昨年は岩瀬仁紀(中日)が4年ぶりに50試合に登板し、見事にカムバック賞を受賞した。防御率4.79は褒められた数字ではないが、6月は14試合に登板して無失点で12年ぶりの月間MVPも受賞している。全盛期のスピードとキレは失われたが、丁寧に打者のタイミングを外す投球はベテランの味を感じさせるものである。

 また、チームメートの山井大介(中日)も最後のチャンスと見られていたシーズン終盤の先発で好投して2勝を挙げ、今季の契約をつかみとった。一度栄光を極めた選手が故障や不調から復活する姿は昔から多くのファンを魅了してきたことは間違いない。今年も昨年の岩瀬のように崖っぷちで踏ん張る選手が出てくることに期待したい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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