ある意味、競争システムで生きてきた現代人とは真逆の発想である。しかし、現状の生き方に不安があり、もっと自由に生きたいという人間にはストレートに突き刺さる言葉なのかもしれない。こんな大胆なセリフを笑顔で言える武田双雲という人間に何故か安心感を得る。そして彼の瞳は非常に綺麗で輝いている。

「昔、テレビの打ち上げで向かいの席に居たメイクさんが、ずっと僕の事を見ていて、『なんでそんなに目が綺麗なの?』って言ってくるんですよ。色んな女優さんやアイドルとか見てるはずなのに(笑)」

 それは毎日を心底楽しみ、そして一つ一つ味わいながら生きている人間にしかない賜物だからだろう。

「毎日、朝起きたら、今日は何しようかな?ってニヤニヤしながら考えるんですよ。何もすることがなくて不安じゃなくて、逆に0だから、何でもやれるじゃんというワクワク感。こうやって、意識を一つ一つ変えていくだけで、本当に楽しい事が入ってくるから」

 苦しいことが全くないというか、寄せ付けない自分にもっていく。そういう作業を日々しているのだ。だから、朝の過ごし方も独特だ。

「まず、午前中には仕事は入れない。目覚ましは使わない。ゆっくりコーヒーを飲んで、子供と戯れる。これが楽しく過ごすためのテクニックかな」

 教室運営をしながら、メディアやイベントでのパフォーマンス、そして全国での講演会など引っ張りだこの武田さんですが、実はゆとりある時間を過ごしている。これも、彼独特の生き方であり、唯一無二の存在に仕立てあげる要素なのかもしれない。

 2018年の念頭に彼はこんなことを記していた。

「理想の一年を漢字一文字で表現してみてください。それをどこかに飾っておくだけでも、脳はその文字に関する情報を自動でかき集めます。だから、夢は叶うのです」

 武田双雲さんの一文字は「挑」だ。

「英会話や料理、洗濯など苦手だと決め込んでいたものを楽しんで積極的にやろうと思います。あっ、『桃(もも)』じゃないですからね(笑)」

 2020年東京オリンピックの年に日本を離れるのは、華やかな祭典に皆が目を向けている隙に旅立とうという、武田双雲さんを惜しむ人への彼なりの思いやりなのかもしれない。(新津勇樹)