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 6月15日の日本ハムvs中日(ナゴヤドーム)は、一邪飛でのタッチアップ生還で試合が決まる珍事となった。

 4対4で迎えた8回、日本ハムは1死から代打・矢野謙次が左前安打で出塁。この場面で代走として起用されたのが、50メートル5秒7の俊足で、“犬よりも速い男”の異名をとる5年目の内野手・大累進だった。

 大田泰示の左前安打とジョーダンの暴投で1死二、三塁のチャンスも、次打者・松本剛は一邪飛。普通なら、三塁走者は自重のケースだ。

 ところが、ファースト・ビシエドが本塁を背にして捕球する姿を見た大累は「(本塁への)ストライク返球は難しい」と瞬時に判断すると、捕球直後、迷わずスタートを切る。

 はたして、ビシエドの振り向きざまの返球は大きく三塁方向にそれ、見事5対4と勝ち越しに成功した。

 結局、これが決勝点となり、試合後、プロ初のお立ち台が待っていた。

 2012年のドラフト巨人に2位指名入団。仮契約の席で、飼い犬のコーギーよりも「僕のほうが(足が)速い」とコメントしたことから、“犬よりも速い男”との異名がついた。2016年シーズン途中に乾真大との交換トレードで日本ハムに移籍。プロでまだ安打を1本も記録していないのに、ヒーローインタビューを受けるのも、足のスペシャリストならではの珍事である。

「まさか僕が呼ばれるとは…うれしいです」(大累)。

 2017年は13試合に出場も、2打数無安打に終わり、プロ初安打は2018年に持ち越しとなった。

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 忘れかけられていた男が、一世一代のハッスルプレーで名を挙げた。
男の名は岩本貴裕。入団2年目に14本塁打を記録したかつてのドラ1も、近年は若手の台頭に出番を奪われ、出番が激減していた。

 2017年も開幕を2軍で迎え、1軍登録されたのは7月9日。それだけに「何とか結果を出そう」と必死だった。

 同12日のDeNA戦(マツダスタジアム)、6回に足を痛めたエルドレッドに代わって代走でシーズン初出場。1点リードの7回2死満塁でシーズン初打席が回ってくると、「簡単にアウトにならない。三振しない。粘ろう」と自らに言い聞かせ、左中間を真っ二つに割る走者一掃の3点タイムリー二塁打。中継が乱れる間に三塁に進んだ後、捕手・高城俊人からの送球が自らの左膝に当たり、ボールが三塁ファウルゾーンを転々とするのを見て、一挙ホームへ。

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まるで忍者のような…