幸い上本は頭部の軽い打撲と診断され、翌10月1日の巨人戦にも支障なくスタメン出場。ここから因縁ドラマの第二幕が始まる。


 
 初回に四球を選んだ上本は、3回にも右前安打と2打席連続出塁。そして、阪神が3対2とリードした5回1死、この回から先発・田口麗斗をリリーフした畠と対戦する。

 見ている側にとっては、前日の危険球の記憶がまだ生々しく、残酷にも受け取れる因縁対決だったが、上本は頭部死球の影響もなく、ためらうことなく左足を踏み込んで初球の真ん中の直球をフルスイング。気迫を乗せた打球は、左翼席上段に突き刺さる9号ソロとなった。

 これには金本監督も胸を熱くした。「昨日ああいうことがあって、特大ホームランなんて……」。実は、自身も現役時代の2008年5月7日の巨人戦で、木佐貫洋から後頭部への死球を受けた次の打席で、門倉健から本塁打を放った経験があった。

「オレのはまぐれ。逃げながら打ってたから(笑)。上本はちゃんと踏み込んでるから」

 だからこそ、「カッコいい!」のである。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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