ただ今の時代、海外留学を行う高校生も増え、修学旅行で海外に出ることも珍しくもなくなった。国際交流を特色にする私学の高校も多く、そうした中で学校の交流行事の一環として、野球部の親善試合や海外遠征のプランが浮上することもあるだろう。現在は各学校の教育方針、学生側の希望やニーズに基づいた『選択』の時代でもある。

「海外に遠征して、その間の授業はどうするんだ?」

 こうした反論も、間違いなく起こってくる。しかし今やノートパソコンやiPadを1台ずつそれぞれの生徒に持たせれば、日本から仮に何千キロ離れた場所であろうとも、通信環境さえ整っていればフェイス・ツー・フェイスで双方向のコミュニケーションすら可能なのだ。画面を通して、授業を行うことに何の支障もない。

「球場の横に教室を建てて、練習前にパソコンを通して学校からの授業を受け、それからグラウンドに行く。そういうことは普通にできる時代なんですよね」

 高下の言うことは、決して大げさでもない。教室に座って授業を受ける。そうした固定観念を取っ払って考えてみればいい。海外遠征=授業ができないという図式は、今の時代には当てはまらなくなろうとしている。

 毎年、夏休みの時期になると、米国の高校生たちがヨーロッパを転戦するという「トラベルチーム」が結成される。旅行を兼ねた選手の家族も一緒になり、2週間程度のツアーの間、選手たちは旅先の現地でチームを組み、試合を行う。つまり、各国で年齢に応じたチームとの国際試合が日常的に開催されている。欧米では、高校生の頃からそういった環境を自らの目で見て、実際に体験しているのだ。

 そうした環境を、どうして日本で作れないのだろうか。その障壁を連盟外であれば取り除くことができる。甲子園ではなく、夏はヨーロッパ各国を転戦する。そんな高校野球のチームがあっても、まったくおかしくない。そうした多彩な選択肢を提供したいという高下の思いが、「甲子園を目指さない野球部」というプランの中には込められているのだ。

<後編>へ続く

(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス中日ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。