こうした高下らの地道な取り組みに着目していたのが学校法人の芦屋学園だった。球団が続けていた、兵庫県内での「地域貢献活動」への協力態勢を築くために始まった両者の話し合いの中で、野球界の常識を越えたある構想が浮上してきたのだ。

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 芦屋学園は教員育成の一環としてスポーツ活動の充実を図ってきた。中学、高校、そして芦屋大学の10年一貫指導の中で、バスケットボールやボクシングにおいてプロのコーチの指導を受け、プロとの試合を通してその技術を磨き、また大学のスポーツマネジメントコースの中でプロスポーツクラブ運営のノウハウを学び、将来の経営者を育成したい狙いもあった。そうした中で、野球部を創設した場合にもプロの指導を受け、プロと試合を行うことはできないのだろうかと模索していた。

 そこで、高下が提案したのが、芦屋学園の運営する芦屋大学が「全日本大学野球連盟に入らない」ことだった。

 所属リーグの春季リーグで優勝したチームが出場する「全日本大学野球選手権大会」は毎年6月、神宮球場を中心に開催される。高校生の聖地が甲子園なら、大学野球の選手たちにとっては大学日本一をかけて神宮で戦うことが最大の目標だ。大学側にとっても、全国的な知名度を上げるのには絶好の大舞台でもある。ただ、連盟に所属しなければ、その挑戦権は得られない。

 ところが、芦屋学園側は「それには興味がなかった」という。「埋もれた人材の才能をいかにして引っ張り出すか」という学園側の目的に合ったプランが「兵庫との話だった」と説明する。プロが常時、大学生を指導し、それによって新たな才能を開花させることができる。「日本学生野球憲章」の効力外なら、兵庫球団というプロと芦屋大学が“コラボ可能”になる。ならば、新たに立ち上げる芦屋大野球部は連盟に入らなければいい――。その結論に至るまでには、時間はかからなかったという。

 2011年11月24日、芦屋大は高下が球団代表を務める兵庫との教育提携を発表した。その中に、球界に一石を投じるこの“仕掛け”が組み込まれた。

 プロと学生の接触を制限している「日本学生野球憲章」に基づけば、兵庫球団に芦屋大の選手が加わって練習や試合を行うことは、まず実現不可能だ。全日本大学野球連盟に加盟しなければ、現行の全国大会やリーグ戦にも参加できず、連盟外のチームとの交流も同憲章で厳しく制限されているため、他大学との練習試合すら組めない。ただ、憲章によると「本憲章を遵守」する対象として明記されているのは、学生野球団体に登録された野球部員と加盟校および指導者とある。そこで、芦屋大側は日本学生野球協会にふたつの疑問点を問い合わせている。

(1)独立リーグは『プロ扱い』なのか?

(2)一般学生は憲章の適用を受けるのか?

 これらの質問に対する連盟からの回答は(1)プロ扱い、(2)受けない、というものだった。

 この回答の意味を説明していこう。

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芦屋大が考案したシステムとは