四死球連発ネタをもうひとつ。投手6人をつぎ込み、被安打9、毎回の与四死球12。普通に考えれば、二桁失点していてもおかしくない内容である。ところが、驚いたことに楽天投手陣は、このボロボロの状態で完封勝ちしてしまったのだ。

“世にも不思議な物語”が幕を開けたのは、9月29日の日本ハム戦(札幌ドーム)。先発・藤平尚真は初回、安打と四死球で1死満塁のピンチを招くが、後続二者を打ち取り、無失点で切り抜けた。

 2回にも先頭の大田泰示に四球を与えたが、盗塁失敗で救われる。3回1死満塁のピンチも切り抜け、不安定ながら3イニングを無失点と踏ん張った。

 4回からリリーフした青山浩二もこの回、安打と四球で2死一、二塁、5回にも2死満塁と連続ピンチだったが、3番手・高梨雄平が代打・近藤健介を一ゴロに仕留め、好火消し。その高梨も6回に2死一、二塁とするが、ここでも中田翔を左飛に打ち取って踏ん張った。

 さらに7回から登板のハーマンが2死満塁のピンチを招くと、5番手・福山博之が後続をピシャリ。福山は8回1死満塁のピンチも併殺で見事に切り抜ける。

 9回は守護神・松井裕樹が2死後、大野奨太に死球を与え、ついに球団初の毎回与四死球……。だが、3アウトのすべてを三振で切って取り、3対0で逃げ切る。

 計5度の満塁のピンチを乗り越えての完封リレー。梨田昌孝監督も「綱渡り、奇跡に近い」と目を丸くした。

 一方、日本ワーストタイの19残塁で、まさかの完封負けを喫した日本ハム・栗山英樹監督は、「すごいね、それ」と自虐的に評しつつも、「こういうことも含めて、すべてこっちの責任」と選手を一言も責めることなく、球場を後にした。

 今度は危険球の話である。

 パーフェクトピッチングがたった1球でフイになってしまったのが、ロッテの10年目右腕・唐川侑己。7月18日のオリックス戦(ZOZOマリン)、「ゲームの入り、調子も良かった」と本人が語るなど、絶好調だった。

 その言葉どおり、初回に大城滉二、駿太を連続三振、吉田正尚も遊ゴロで三者凡退。2回もロメロを一飛、小谷野栄一を三ゴロ、中島宏之を二ゴロと2イニング連続三者凡退に切って取った。

 さらに3回もT-岡田を三振、安達了一を中飛と打者8人をパーフェクトに抑え、付け入る隙を与えない。ところが、好事魔多し。2死から9人目の打者・若月健矢に対し、1ストライクから2球目を投じると、なんと、左顔面付近を直撃する死球……。倒れた若月は担架でベンチに運ばれ、唐川も43球で危険球退場となった。

「相手打者、チームに申し訳ない気持ちしかありません」(唐川)

 しかし、この緊急事態にもかかわらず、リリーフ陣が踏ん張る。スクランブル登板の2番手・東條大樹が1回1/3を1安打1四球の無失点で切り抜けると、有吉優樹、南昌輝、内竜也とつなぎ、なんと、投手5人のリレーで2安打完封勝ちしてしまった。

 これが記念すべきプロ初勝利となったドラフト5位ルーキー・有吉はお立ち台で「最高です!」と白い歯を見せた。唐川の“魔の1球”が回り回って、ルーキーのうれしいプロ初勝利。「風が吹けば桶屋が儲かる」を地でいったような話は、風が名物のマリンスタジアムらしい結末と言えるかもしれない。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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