■三菱重工は防衛・経産の子会社になる?

 航空機、造船(軍需を除く)、火力などを子会社化した三菱重工本体には、主要事業として、防衛、航空・宇宙、原子力などが残っている。よく考えると、これらは、いずれもお役所の言うことに従って動く国策産業だ。

 17年11月6日には、日経新聞に「不況造船に『官の恵み』 潜水艦や護衛艦の建造・改修 」という記事が載った。民間市場では仕事が取れないので、仕方なく、防衛部門にシフトするしかない関連企業の話が出ているが、防衛産業の売り上げが最も多いのが三菱重工だ。

 さらに、年末の12月21日の日経新聞には、「次世代原子炉を輸出 東芝など官民、ポーランドで建設 」という見出しが載った。東芝などと書いてあるが、東芝と並んで三菱重工も重要なプレイヤーの一つだ。その見出しでも「官民」という言葉が躍っている。再生可能エネルギーの分野で完全に出遅れた日本企業が、経産省と新興国政府に頼って、再び原発に活路を見出そうということなのだろうか。

 この二つの記事は、まさに、三菱重工が民間企業から事実上の役所の子会社に成り下がっていくのを象徴しているのではないだろうか。

 日本の大手メーカーには、「我が社の技術は世界一」という思い込みを持つところが多い。そうした自惚れを持っていては、海外の優秀な企業との連携をしようとしてもうまく行かない。また、世界の最新の情報も入ってこない。その結果、様々な分野でガラパゴス化をもたらし、グローバル市場での日本企業の不調につながっているのが現状だ。

 そのような企業行動は、経産省の日の丸主義と護送船団方式によってがっちりサポートされている。官民複合産業体になっているのだ。そして、三菱重工もその代表格となっている。同社が、本来のたくましい民間企業としての復活を望むなら、純国産・自前主義を完全に捨て去り、海外一流企業との間で謙虚な姿勢で協力関係を結び、新たな地平を切り開くという姿勢に転換すべきだろう。そうしなければ、MRJをはじめ、これからも大型プロジェクトで失敗が続くことになるのではないだろうか。

 17年11月30日、愛知県豊山町に「MRJミュージアム」「あいち航空ミュージアム」がオープンした。初めての週末だった12月2、3日は計5443人が訪れ、子どもたちが実機の展示を見て「大きい」と歓声を上げながら記念撮影をしてはしゃぐ姿が報じられた。12月と今年1月はほとんど空きがないというほどの人気だ。

 このミュージアムのように、三菱重工が、子どもたちに夢を与える企業として生き残ることができるのか、それとも、役所に手取り足取り指導を受けて、武器と原発を世界中に売り歩く死の商人に成り下がるのか。同社は、大きな岐路に立たされている。

著者プロフィールを見る
古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

古賀茂明の記事一覧はこちら