■千載一遇のチャンスを逃した「自前主義」の罪

 日経新聞によれば、MRJの開発が難航していた10年頃、三菱重工はボーイング社から「ボーイング737のコックピットを使ってみては?」と持ちかけられたそうだ。しかし、三菱重工は〝純国産自前主義〟にこだわり、その提案を一蹴してしまった。

 おそらく、経産省にも相談した結果のことだろう。経産省から見れば、日本の航空機産業がボーイングの下請けから脱して独自の道を歩む象徴的なプロジェクトで、エンジンと並ぶ重要性を持つコックピットをボーイングに頼ることは、絶対に避けたいという心理が働いたのは確実だ。世界のライバルの動きなどを見ながら、柔軟に方針転換する能力さえあれば、きっとこの時、三菱重工に対して、ボーイングとの協業に動くようアドバイスしたのであろうが、残念ながら、彼らには、「排外主義」の遺伝子はあっても、「国際協力」の遺伝子はない。結果として、千載一遇のチャンスを逃してしまったのである。

 この時、「YES」と応じていれば、今難航している世界各国の型式証明取得などにもボーイング社のノウハウを活用できただろう。その後の納期遅れもなく、今頃MRJは世界シェア1位のリージョナルジェットになっていたかもしれない。

■期待の火力発電事業でもトラブル続きで泣きっ面にハチ

 タイミングの悪いことに、現在、三菱重工は日立製作所との間に大きなトラブルを抱えている。両社がそれぞれの火力発電事業部門を統合し、三菱日立パワーシステムズを設立したのは14年のことだ。両社にとって、火力発電事業は屋台骨とも言える重要な事業だ。しかし、世界の競争は厳しさを増している。そこで、統合によって、世界の2強、GEとシーメンスに対抗できる勢力を目指したのだ。

 ところが、統合前に日立が受注していた南アフリカの火力発電プラント建設で工事の遅延が発生した。アメリカで東芝の子会社が、原発建設の遅れから大規模な損失を出して、破たんに追い込まれたのはつい最近のことだが、これと似たことが起きているわけだ。そして、これによって発生する巨額の損失の負担をめぐり、日立と三菱の間で折り合いがつかず、三菱は損失額7634億円全額の支払いを日立に求めて、17年7月末に日本商事仲裁協会に仲裁を申し立てている。

 ここまで泥沼化し、仲裁申し立てまでしなければならないということは、三菱が負ける可能性もあるということだ。そうなれば、出資比率(65%)に応じた損失が生じ、その額は5000億円規模になってしまう。

 ということは、MRJ、そして南アフリカの発電プラントでの損失見込みを合わせると1兆円を超えてしまうかもしれない。三菱重工の自己資本は2兆円と厚いので、1兆円の損失で即経営危機とはならないが、少なくとも、経営にイエローランプが灯ったと警戒すべき段階だと言ってよいだろう。

次のページ
今後の火力発電の見通しは真っ暗