中日・高橋周平 (c)朝日新聞社
中日・高橋周平 (c)朝日新聞社

 2017年もさまざまな出来事があったプロ野球。華々しいニュースの陰でクスッと笑えるニュースもたくさんあった。「プロ野球B級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に2017年シーズンの“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「うれし恥ずかし初体験編」だ。

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 野球は何が起きるかわからない。

 もちろん、指揮官も十分対策を立てているのだが、よりによって、「こうなったら一番困る」状況を狙い打ちしたかのような事態が起きてしまう。8月24日の楽天vsロッテ(ZOZOマリン)でも、その「まさか!」が起きた。

 1対0で迎えた4回2死二塁。三木亮が安楽智大から右手に死球を受け、親指を骨折してしまった。伊東勤監督は頭を抱えた。

 なぜなら、この日、内野手3人が登録抹消され、代わって昇格した内野手は、ファーストでスタメン出場した香月和也だけ。ただでさえ内野手が少ないのに、ショートを守る内野の要・三木が出場不能になったため、急きょ、シフトを大変更する必要に迫られたのだ。

 サードの中村奨吾がショートに回り、香月がサード。そして、ファーストには福浦和也が入ることになった。その前に三木の代走をどうするか? 福浦を前倒し起用するのが最も効率的だった。しばらくして、「代走・福浦」がアナウンスされると、場内から「オーッ!」というどよめきが起こった。

 ファンが驚くのも無理はない。これがなんと、プロ24年目にして初めての代走起用だった。

 本人も「代走は記憶にない。出されるのはしょっちゅうだけど…。誰かに何かが起きたら、ファーストは予測していたけどね。ビックリした」と目を丸くするばかり。

 そして、この福浦起用が吉と出る。6回2死二塁で左翼フェンス直撃のタイムリー二塁打を放ち、貴重な2点目をもたらしたのがモノを言って2対1の勝利。「風のお蔭ですよ。勝って良かった」と照れる41歳だった。

 「中日・高橋周平が本塁打を放った!」と書くと、“和製大砲”ならではの豪快な一発を連想する人が多いはず。ところが、この日、高橋が放ったのは、同じ本塁打でも、意外や意外、ランニング本塁打だった……。

 8月30日のDeNA戦(ナゴヤドーム)、7番サードでスタメン出場した高橋は、2対5の7回1死、カウント2-1からエスコバーの4球目、148キロの外角球を左翼線にフラフラと打ち上げた。

 レフト・筒香嘉智が前進してダイビングキャッチを試みたが、わずかに及ばず後逸。打球はフェアゾーンギリギリに落ちた。ボールが転々とする間に、高橋は激走、また激走。返球がワンバウンドで捕手・嶺井博希のミットに収まり、本塁クロスプレーになったが、果敢にヘッドスライディングして、間一髪セーフをかち取った。

「実は、これがナゴヤドーム開場21年目にして初めて記録されたランニング本塁打だった。外野フェンスの膨らみが大きい同球場は、後逸のリスクを考えて、外野手が打球に突っ込むことを自重していたので、出そうでなかなか出ない状態が続いていたのだ。

「飛んだ場所も追いかけてくれた人(筒香)も良かったし、同じことをやれと言われても無理。ホールインワンと同じようなもの」と森繁和監督が評したのは、まさに言い得て妙だった。

 そして、けっして俊足ではない高橋本人にとっても、これがプロ6年目で初体験のランニング弾だった。

(エスコバーは)球が速いので、(バットを)短く持ったのが良かったです。最初はフェアかファウルかもわからなかった。二塁を回ったときに、イケるかもと思った」(高橋)

 2017年は、この2号ランニング弾で打ち止めになってしまったが、18年シーズンこそ、和製大砲の開眼を期待したい。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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