候補者、候補作品の発表後に注目されるのは、NARASのメンバー全員の投票で決まるジェネラル・フィールド4つの賞の顔ぶれだろう。「2017年の一枚」ということになるRecord of the Year年間最優秀レコードには、チャイルディッシュ・ガンビーノの「レッドボーン」、ジェイZの「ザ・ストーリー・オブO.J.」など5枚、Album of the Year年間最優秀アルバムには、ケンドリック・ラマーの『ダム』、ブルーノ・マーズの『24Kマジック』など5作品、ソングライターを対象にしたSong of the Year年間最優秀楽曲には、ロジックらの「1-800-273-8255」、ジュリア・マイケルズらの「イシューズ」など5曲、Best New Artist最優秀新人にはジュリア・マイケルズ、SZAなど5人がそれぞれノミネートさている。また複数部門候補者は、ジェイZが8つでダントツ。ケンドリック・ラマーが7つ、ブルーノ・マーズが6つでそれにつづいている。

 興味を持たれた方はオフィシャル・サイトなどで詳しくチェックしていただくとして、個人的にとくに気になっているのは、自殺防止ライフラインの無料電話番号をそのままタイトルにした「1-800-273-8255」。シンプルな言葉に込められた強いメッセージをそのまま映像化したミュージック・ビデオも制作されていて、こちらは映像部門賞の候補にもなっている。また、ソングライターとして働いたあと自身のレコードでも注目を集めるようになったジュリア・マイケルズからは、21世紀版キャロル・キングといった印象を受けた。こういう曲やアーティストがきちんとクローズアップされるあたりが、「グラミーらしさ」といえるのではないだろうか。

 主要4つの賞に関していうと、候補作品のなかには近年の「分断」を意識したと思われるものが少なくない。これもまた「グラミーらしさ」だ。顔ぶれがやや地味な印象を与えるかもしれないが、アメリカの音楽界が目指す道、さらなる可能性を模索する姿を知るという意味でも、応援とか人気投票といった視点からではなく、注目してみてはいかがだろう。その他の賞に関しても、それぞれの候補者リストを細かくチェックしていくと、新たな出会いや意外な発見がきっとあるはずだ。(音楽ライター・大友博)

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大友博

大友博

大友博(おおともひろし)1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。dot.内の「Music Street」で現在「ディラン名盤20選」を連載中

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