しかし、日本人の多くは、人前で政治的な主張をしたり、議論を交わしたりすることを好まない。政治風刺ネタにニーズがないので、ほとんどの芸人はそれに取り組もうとしないのだ。

 だが、村本はあえてそこに切り込んだ。ニーズがないなら、作ればいい。笑いという武器を使って、自分の言いたいことを全力で言う、というのが彼の本当の狙いだ。いわば、観客のレベルに合わせるのではなく、観客を自分の求めるレベルまで高めようとしているのだ。こんなにも壮大な野望を抱えて漫才をやっている芸人はほかにいないはずだ。

 ウーマンラッシュアワーの漫才は、単に題材として社会問題を扱っているだけの「社会派漫才」ではない。それは、事なかれ主義の日本人の意識を根底から変えようとする、前代未聞の「啓蒙漫才」なのだ。(文・ラリー遠田)

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ラリー遠田

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ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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