パットンの1球奪三振から2カ月半余り、今度は6月30日のヤクルトvs阪神甲子園)で、もっとレアとも言うべき記録が誕生した。

 ヤクルトが1点リードで迎えた9回裏2死一、二塁、秋吉亮が代打・原口文仁に対し、カウント1-2からの4球目が暴投になった直後、右肩の違和感を訴えて降板したことがきっかけだった。

 控えのリリーフ陣の中から急きょ移籍2年目のベテラン右腕・近藤一樹に白羽の矢が立てられ、2死二、三塁、カウント2-2という一打逆転サヨナラのピンチで緊急登板した。

 大急ぎで4球だけキャッチボールをしてリリーフカーに乗り込んだ近藤は、「緊張しながらも、冷めながら投げられた」と外角低めへの132キロスライダーで原口を空振り三振に仕留め、ゲームセット。これまたパットン同様、1球奪三振だが、史上60人目の1球セーブも同時に達成し、1球奪三振&1球セーブという史上初の珍事となった。しかも、近藤にとって、これがプロ16年目で初めてのセーブとレアずくめだった。

 だが、“代役ヒーロー”として取材陣に囲まれた近藤は「おめでたい話ではないです。チームや秋吉のことを考えると、複雑です」と困惑気味。確かに本来ならあってはならない話だ。

 その後、秋吉は右肩甲下筋の肉離れと診断され、長期離脱。近藤は手薄になったリリーフ陣の苦しい台所を支え、自己最多の54試合に登板して2勝、14ホールドを挙げた。

 緊急登板のリリーフ投手の珍記録の次は、同じ緊急登板でも代役先発のレアな記録を紹介する。

 4月23日の楽天vsソフトバンク(ヤフオクドーム)の試合開始直前、楽天の予告先発・岸孝之が突然腰の痛みを訴え、登板不能になった。

 急きょ、代役に指名されたのは、5日前に1軍登録されたばかりの戸村健次だった。試合開始15分前、トレーナー室でマッサージを受けながら、ウトウトしかけていたときに、突然、与田剛、森山良二両コーチから「戸村、いくぞ」と言われた。

 戸村は、初めは何のことかわからなかったそうだが、1回表の自軍の攻撃中にブルペンで30球ほど投げ、肩を作ってから、ようやく「岸さんに何かあったんだ」と理解した。

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代役先発、2度で2勝の珍記録