このAR系サービスはスタジアムへ足を運んだファンならではの楽しみとなるため、実際に球場へ行くことに付加価値を提供することになる。つまり、チケット販売の促進効果が期待されるのだ。スタットキャストが「テレビ型サービス」だとすれば、ARは「臨場型サービス」といったところか。大リーグが放映権の価値上昇とチケット売り上げの向上を見据えて、新たなサービスを構築したということがよく分かる。

 さて、このふたつのサービスはプロ野球観戦の楽しみを大いに増してくれるものだが、果たして日本にも近い将来に導入されるだろうか。

 残念ながら、その答えは「難しい」と言わざるを得ないだろう。全球団の本拠地にこれほどの機器を導入する、あるいはITインフラを整備する資金的な問題をクリアするのは間違いなく困難だからだ。これは、ビデオ判定で用いる映像を日本野球機構(NPB)が自前で取得するのではなく、試合を放映する各事業者に頼らざるを得なかったことでも自明の理。また、放映権や各チームの公式HPなどもNPBが一括管理しているわけではない現状も、球界全体の足並みをそろえる必要があるサービス導入には向いていない。

 「なんでも大リーグに倣う必要はない」「そんなサービスをファンは求めていない」という意見にも、もちろん耳を傾ける必要はある。とはいえ、レジャーの多様化が進む世の中で「これまで通り」というのは緩やかな衰退につながりかねない。日本独自のサービスを模索するのも重要だが、まずは大リーグをお手本に検討してみるというのは悪いことではないはずだ。