「友達と江津の街に行く時には三江線を使います。なくなったらイヤですね」

 スクールバスに押されているとはいえ、鉄道で通学している高校生もまだいる。車内でウノを始める女子高生も。これはバスではできない芸当だ。

 2歳の男子を毎日、三江線に乗せて親元に連れてきているという祖父母もいた。男の子はすっかり鉄道好きになり、石見川本駅ですれ違う三江線の列車にくぎ付けだ。

 車に乗れない人、バスが苦手な人、鉄道はそういった交通弱者にも広く開かれた交通手段だ。だが、経済効率性だけを見ると鉄道はどうしても分が悪くなってしまう。東日本大震災で被災した三陸鉄道(岩手県)の望月正彦元社長は、「鉄道がなくなって栄えた町はない」という信念で全線復旧を成し遂げた。三江線を失った沿線の街はこれからどうなるのか。考えを巡らせながら、車で沿線を後にした。

 宇都井駅をはじめ、最後の三江線の雄姿を沿線各地で撮り下ろしたムック『国鉄の車両 鉄魂』は12月18日、全国の書店で発売される。(アエラムック教育編集部・福井洋平)

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福井洋平

福井洋平

2001年朝日新聞社に入社。週刊朝日、青森総局、AERA、AERAムック教育、ジュニア編集部などを経て2023年「あさがくナビ」編集長に就任。「就活ニュースペーパー」で就活生の役に立つ情報を発信中。

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