たとえば作詞家・阿久悠とのエピソードを語ったあとに歌った「気絶するほど悩ましい」は、落ち着いた仕上がりで、ぐっと深みを増していた。フェンダー・ムスタングを抱えたCharの代名詞とも呼べる「Smokey」では、オリジナルとほぼテンポを変えず、力強くコードを刻みながら正確にメロディも引き込んでいく。ちょっとレゲエのリズムを加えた「プレゼンス・オブ・ザ・ロード」は途中から「上を向いて歩こう」に移っていく。ともに故人となってしまったかまやつひろしと石田長生の曲は、明るい感じの仕上がりだった。

 この日のコンサートでCharは、何度かチューニングしながら、ずっと一本のギターを弾きつづけた。それが、YAMAHAのL-51。1975年から80年まで高級手工ライン「Lシリーズ」の一つとして生産されたもので、2010年に10本限定で復刻されたところ、約150万という値段にもかかわらず、あっという間に売り切れてしまったという、ギター・ファン垂涎の名器だ。

 最高級の材質、低音弦側が大きく高音弦側が小さいという左右非対称のボディ、バイキング的なイメージのヘッドなどが特徴のこのギターをCharはオリジナル・モデル生産時に入手し、以来ずっと弾きつづけてきた。あまり目にすることのない貴重なモデルだが、この原稿を書くためにいくつかのサイトを調べるうち、面白い情報を得た。1978年春に初来日公演を行なったボブ・ディランは何本か日本製のギターを買っていて、そのうちの一本がL-51だったのだそうだ。BOB DYLAN’S GEARというサイトでは写真も確認できるはず。

 2010年には、原点確認と、敬意と解釈のプロジェクト『TRADROCK』に取り組み、2015年には石田長生、かまやつひろし、松任谷由実ら12人のアーティストの協力を得て完成させた還暦記念アルバム『ROCK+』と同コンセプトの武道館公演で話題を集めるなど、ここ数年も意欲的な動きをつづけてきたChar。2017年はライヴがメインだったようだが、さて来年は? 今でも「下手の横好き」の同世代ロック・ファンの一人として注目していきたいと思う。(音楽ライター・大友博)

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大友博

大友博

大友博(おおともひろし)1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。dot.内の「Music Street」で現在「ディラン名盤20選」を連載中

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