多国籍企業や大金持ちの話だからよくわからない、庶民である自分とは関係ない――。日本では、そんなふうに他人事に感じている人が欧米以上に多いように感じます。しかし、割を食っているのは中流階級の庶民であり、ふつうの企業であり、一般の納税者なのです。

――どういうことですか?

 たとえば、日本でビジネスをする大企業や日本で財産を築いた富豪がタックスヘイブンで税逃れをしたとします。当然、国の税収は減る。すると国はその分を「取りやすいところ」から取ろうとする。どこか? 所得をすべて把握され、税金が給与天引きの会社員は、最たる「取りやすいところ」と言えるでしょう。

 2014年に非営利の報道機関「国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)」が公開した秘密文書「ルクセンブルク・リークス」には、「あおぞら銀行」の名がありました。同行の前身、日本債券信用銀行は1998年に破綻し、損失の穴埋めに3兆円を超える公的資金が投入された。その中にはわれわれの血税も含まれていましたが、一切戻ってきません。その後、アメリカの投資ファンド「サーベラス」が同行の株式の過半を買収し、売り抜けて1千億円超の利益を得ました。その際、サーベラスは、その利益を、タックスヘイブンのケイマン諸島やルクセンブルク、オランダの20の法人や組合を経由させ、日本国外に吸い上げたと思われます。ルクセンブルク・リークスの中にあった文書でそういう経緯を読み取ることができます。この利益にかかる税金を日本では払っていないと関係者は言うの ですが、サーベラスにそれを当てても 、「サーベラスはすべての税法や条約を順守している。日本投資に用いられたストラクチャーは売り手にも、しかるべき当局にも透明だった」という返答です。私はこれに割り切れないものを感じます。

 バブル崩壊後に金融機関が次々と破綻し、その損失穴埋めに公的資金が投入されました。それは最終的に血税でまかなわれるでしょう。日本の納税者は金融業界の不始末の尻ぬぐいをさせられたのです。また、この間、預金の金利はほとんどゼロに抑えられています。一般の預金者に入るべき金利が大規模に不良債権の処理に回されています。このようにして、私たち日本の納税者、預金者は他人の損失をかぶって日本の金融システムを守ってきたのです。にもかかわらず、その金融システムを利用 して富を築いた企業や人の一部が、タックスヘイブンにその富を逃している。私はこれを理不尽な話だと思います。

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