日本時間2017年11月6日午前3時。ある秘密文書に基づく報道が世界中で一斉に始まった。「パラダイス文書」。莫大(ばくだい)な内部告発データがつまびらかにしたのは、多国籍企業やセレブとタックスヘイブン(租税回避地)の関わりの実態だ。国際的なジャーナリスト集団の一員としてデータの分析・取材にあたり、著書『パラダイス文書』を緊急出版した朝日新聞の奥山俊宏編集委員に聞く、われわれにとっても他人事ではない実情とは?

――パラダイス文書の反響、影響は?

 昨年のパナマ文書の報道の際には、事前にはまったく予想していなかったような大きな反響があって、正直、驚いたのですが、今回のパラダイス文書はそれとは違います。量的には反響は小さいようにも感じますが、質的にはどうでしょうか。まだよく分かりません。

 欧州議会で突っ込んだ議論がされていて、おそらく制度改正につながるでしょう。米国の議会でも税制改革が議論されていて、その良し悪しは論者によって真逆でしょうが、法人税率が大幅に切り下げられそうです。

 多国籍企業の税逃れや富裕層の財産隠しなどの報道は近年これまで何度も経験していますが、いつも、欧米、特にヨーロッパでは非常に大きな反響があります。今回もそうです。一方、日本はいつも反応が弱い。

 というのも、欧米では、国税当局や議会の努力もあって、租税回避によって年間にどのぐらいの税収が失われているのかが明らかにされますし、アップルやアマゾンといった企業の租税回避の実態が公表されたりもします。日本ではそれがない。正直、実態がほとんど見えない。だから、実感も興味も持てないのかもしれません。つまびらかにすることで国民の納税意欲が失われることを危惧しているのかもしれませんが、実態が分からないと、対策を議論できない。議論がないと、対策もない。何となくの不公平感だけが漂っている。それでいいのかなと思いますね。

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