ジェダイとして活躍したアナキン・スカイウォーカーは禁断の恋に落ち、暗黒卿ダース・ベイダーと化してしまう。現代の医師はどう診断するのか (※写真はイメージ)
ジェダイとして活躍したアナキン・スカイウォーカーは禁断の恋に落ち、暗黒卿ダース・ベイダーと化してしまう。現代の医師はどう診断するのか (※写真はイメージ)

『戦国武将を診る』などの著書をもつ日本大学医学部・早川智教授は、歴史上の偉人たちがどのような病気を抱え、それによってどのように歴史が形づくられたことについて、独自の視点で分析。医療誌「メディカル朝日」で「歴史上の人物を診る」を連載していた。今回はSF映画「スター・ウォーズ」シリーズに登場する「ダース・ベイダー」を診断する。

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【ダース・ベイダー】

 歴史上の人物の診断をしていて、困るのは親族や子孫、熱烈なファンからのクレームである。特に、精神疾患や性感染症など偏見を持たれやすい診断名だと後難が恐ろしい。その点、物語の中の人物は気が楽である。

■ジェダイの騎士からの転落

 ジョージ・ルーカス監督によるSF映画「スター・ウォーズ」シリーズは間違いなく歴史に残る名作だと思う。映画音楽や時代に先駆けた特撮以上に、神話学や歴史物語を熟知したプロットや、登場人物の性格設定が巧みなことは言うまでもない。中でも敵役のダース・ベイダーは際立っている。

 遠い昔、はるか彼方の銀河系。多くの異星人が共存する銀河共和国は「ジェダイ騎士団」により平和が保たれていた。しかし、邪悪な野望を抱く「シス」が勢力を伸ばしてきた。その頃、銀河辺境で一人の少年アナキン・スカイウォーカーが「フォースに選ばれし者」として騎士の一人オビ=ワン・ケノービに育てられ、やがてジェダイとして活躍するが、護衛をしていた惑星ナブー女王で元老院議員パドメ・アミダラと禁断の恋に落ち、シスの首魁パルパティーンによって、暗黒卿ダース・ベイダーと化してしまう。彼らの陰謀によりジェダイは壊滅し、オビ=ワンと賢者ヨーダは、パドメの子どもたちとともに姿を隠す。

 2007年、フランスの精神科医Eric Buiは、アナキンが境界型パーソナリティ障害に苦しんでいたのではないかという仮説を提唱した。プライドの高いアナキンは自己愛が強く怒りのコントロールが困難である。そして愛する女性の死というストレスに誘発される現実感の喪失、子どもの時から危険なポッドレースを好む衝動性、さらに見捨てられることを恐れる強迫観念があり、「極端な観念論と自己および他者への蔑視の間を揺れ動く不安定で激しい対人関係のパターン」があるというのである。銀河の平和を守るジェダイから暗黒卿になったのも自分の存在と使命が分からない「自己同一性障害」の結果であるという。

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早川智

早川智

早川智(はやかわ・さとし)/1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に戦国武将を診る(朝日新聞出版)など

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