今年のノーベル平和賞に選ばれた「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)。受賞理由は、7月7日に国連の場で122カ国の賛成で採択された初の「核兵器禁止条約」づくりへの貢献である。毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された、朝日新聞ジュネーブ支局長・松尾一郎さんの解説を紹介しよう。

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 ICANは、日本の被爆者と協力し、原爆が投下された後、彼らが経験した地獄のようなできごとについての証言を国際社会に広める役目も果たしてきた。

 核兵器禁止条約は、核兵器の使用や保有、開発などを幅広く法的に禁じ、犠牲者の救護なども義務づけている。ただし、条約の取り決めに縛られるのは、これに加わる締約国だけである。しかも条約を推進してきたオーストリアやメキシコなどはいずれも核を持たない国ばかり。1万5千発ともいわれる世界の核爆弾の大半を持つアメリカ(米国)とロシアのほか、イギリスやフランス、中国、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮という、核兵器を保有、もしくは事実上保有している国々が条約に加わるめどはない。だから、「核兵器禁止条約で核兵器は一発も減らない」との批判もある。

 条約に批判的なのは、核保有国だけではない。実は被爆国日本の政府は批判の急先鋒である。日本やオーストラリア、またドイツやオランダなど北大西洋条約機構(NATO)に加盟している国々は、「自らは核兵器を持たないけれども、いざというときに米国の核兵器を頼りにしてよい」という同盟関係を米国と築いている。核武装を進める北朝鮮を前に、日本政府は米国が提供する「核の傘」への依存を深めており、核兵器の使用などを根底から否定する核兵器禁止条約を否定せざるをえないとの立場である。

 しかし、ICANなどは、そうした考え方が犠牲者の視点に立っていないと批判する。むしろ、核兵器を生物化学兵器などと同じような「絶対悪」と位置づけ、核廃絶に向け、市民の力で各国の政府に圧力をかけることで「核なき世界」の実現を進めようとしている。(解説/朝日新聞ジュネーブ支局長・松尾一郎)

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松尾一郎
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