──この別荘で過ごした曽祖母アガサさんの思い出はありますか?それとも父様を通しての思い出でしょうか?

「曽祖母が他界したのは僕が6歳の時だから、うっすらとした思い出はあるんだ。彼女とここで過ごしたことは何となく覚えている。だけれども、ほとんどの思い出は父や祖母から語り継がれた思い出だ。父にとって彼女は非常に素晴らしい祖母だった。父は、1歳か2歳の時に父が戦死したからね。だから彼女は祖母の子育てを大きく助けたんだ。父は曽祖母にとてもかわいがってもらったんだ。一緒に旅にいったり音楽を聴いたり……。だからアガサ・クリスティーというと、僕にとっては二人の人間なんだ。一人は有名な作家。もう一人は父がニーマと呼ぶ曽祖母だ。作家と家族という2人の人間なんだ」

──アガサ・クリスティーの小説があれほど多くの人に愛されたのはなぜだと思いますか?

「曽祖母は凄い数の著作を出版した。とにかくプロットが面白いんだと思う。すべてが傑作といえないにしても、駄作ではないよ。どれを読み直しても、一貫した内容のレベルの高さに驚かされる。作品ごとに多様性もあるし、1作ごとに深みもある。第一次大戦時代から70年代くらいまで執筆し続けたわけだが5,60年間は書いていた、その偉業は驚きだと思う。どの作品を読んでも、ここがおかしいとか間違っているとかいった点もないし、頭の中で作り上げた物語を間違わずに最初から最後まで書き上げる知性は凄いと思う」

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アガサさんが生きていたら、質問してみたい事は?