1つは、政治的なリスク。

 与党が大勝したとはいえ、自民党内にはアベノミクスに批判的な勢力が存在しており、衆院選前には「ポスト・アベノミクス」をさぐる動きが活発になっていた。

 永田町では、ポスト安倍を目指す自民党内の面々を、「岸破聖太郎」と呼んでいる。

 岸田文雄氏(自民党政務調査会長)、石破茂氏(元地方創生相)、野田聖子氏(総務相)、河野太郎氏(外相)の4人である。麻生太郎氏(財務相)を入れて「5人」という人もいる。

 安倍首相の盟友の麻生氏や、ポスト安倍が本命視されている岸田氏は、安倍首相の政策に異論を唱えにくい。

■ポスト・アベノミクスの可能性

 だが、勝ち取りに行く「チャレンジャー」的立場の石破氏や野田氏、河野氏は事情が違う。

 たとえば、野田毅氏(自民党税制調査会名誉会長)らは5月、「財政・金融・社会保障制度に関する勉強会」を立ち上げた。ポスト・アベノミクスをさぐることを目指しており、発起人には、ポスト安倍を目指す野田総務相らも加わった。石破氏も会合に顔を出している。

 河野氏らも、今年春に自民党行革本部に金融政策の勉強会を立ち上げ、4月には「日銀の金融政策についての論考」をまとめた。大規模な金融緩和が長引けば、リスクが大きくなるという内容で、菅官房長官らに論考を手渡している。

 これらの動きは、来年9月の自民党総裁選をにらんだ権力闘争の意味合いが強い。

 2012年9月から2期6年をつとめた安倍首相を交代させ、「ポスト安倍」を目指すなら、アベノミクスに代わる新機軸の経済政策の「旗」を打ち立てる必要があるからだ。

 黒田総裁の続投であれば、石破氏や野田氏のような首相に批判的な勢力も、反対しにくい。2013年春に、黒田総裁人事案に一度、賛成票を投じてしまっているためだ。しかし、首相が別の人物を選ぶなら、人事への賛否を問う採決をきっかけに、アベノミクスについての論争の巻き起こり、安倍3選を阻止しようという動きを触発する可能性がある。

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黒田が交代すればデフレに逆戻り?