中野さんは「赤ちゃんの足型をとって手紙に同封される方や、毎年のように来られて、お互いにあてて手紙を書き合うご夫婦もいらっしゃいます。仲むつまじくてうらやましいです」と話す。

 ほほ笑ましいエピソードも多い。家族で訪れ、乗り気ではなかった父親が一番長い時間をかけて手紙を書いたり、夫婦で来て、妻が「家に持って帰って書く」と言う一方で、夫が「感謝の気持ちを一言だけ」とその場ですぐに手紙を書き上げたり、子どもが自分あてに、色鉛筆を使って上手な絵を描き、誇らしげに見せてくれたり。手紙を巡って、さまざまな人間模様が垣間見える。

 泣きながら筆をしたためる人もいる。「日常から離れた空間で、美しい景色を見ながら書くことで素直な気持ちが出てくるのでしょうね。すぐに届くわけではないので、普段言えないことが書けるのだと思います」(中野さん)中野さんは、同館を訪れた娘夫婦と一緒に、孫あてに手紙を書いたそうだ。

 同館が募集した無料体験モニターに参加した兵庫県の女性は、5年後の夫へ感謝の気持ちを書いた。結婚式の感動をつづり、「人は、時を経ると変わってしまいます。もちろん変わらないこともありますが、変わりたくないものほど変わってしまうと思っています。(中略)今のこの気持ちを5年後に伝え、またその5年後にも相手へ自分に伝えていきたいと考えています」と結んでいる。

 同館は個人以外に、学校やクラス単位でも手紙を受け付けている。2015年には、東日本大震災の被災地、岩手県陸前高田市の小中学生が書いた約600通の手紙を預かった。3年間無料で保管し、18年3月に発送する予定だ。

 サービスの利用料は、保管期間が1~3年後で1500円、4~5年後2000円。手紙はインターネットでも受け付けており、その場合は700円が加算される。重さが50グラム以内なら、写真や絵も同封できる。海外にあてた手紙は受け付けていない。

 渡辺館長は「スマホとパソコンの時代にあえて(手紙を)書く。自分の字で書くと個性が出るし、受け取る側の思いも深まる」と“手紙の力”を力説する。あなたなら、誰に対して、どのような思いを未来に託すのだろうか。(ライター・南文枝)