鳴門海峡が一望できる高台に建つ「花見山・心の手紙館」。シダレザクラなど花の名所で、桜の季節は多くの人でにぎわう(花見山・心の手紙館提供)
鳴門海峡が一望できる高台に建つ「花見山・心の手紙館」。シダレザクラなど花の名所で、桜の季節は多くの人でにぎわう(花見山・心の手紙館提供)
来館者が書いた寄せ書き帳を見ながら心の手紙について話す同館支配人の岡本浩幸さん(左)とアドバイザーの中野シゲ子さん
来館者が書いた寄せ書き帳を見ながら心の手紙について話す同館支配人の岡本浩幸さん(左)とアドバイザーの中野シゲ子さん
心の手紙館では、美しい景色を眺めながら、専用の封筒(手前)に思いをしたためる
心の手紙館では、美しい景色を眺めながら、専用の封筒(手前)に思いをしたためる
築50年以上の洋館を改装した花見山・心の手紙館
築50年以上の洋館を改装した花見山・心の手紙館

 SNSやメールが全盛のいま、あえて手紙を希望する年月に送るサービスが、ひそかな人気を集めている。人は、未来に届ける手紙にどのような気持ちを託しているのだろうか。サービスを提供する徳島県鳴門市の観光施設「花見山・心の手紙館」を訪ねた。

【写真】手紙は美しい景色を眺めながら、専用の封筒にしたためる

「母に会えたような気がしてここに来ることができて良かったです」

 2016年秋、同館を訪れた男性が寄せ書き帳につづった言葉だ。亡くなった母親から届いた手紙が同館で書かれたものだと知り、訪れた。「ありがとうございます」。寄せ書きは、感謝の言葉で締めくくられていた。

「心の手紙書きました。届くのが楽しみです」
「3年後の自分へのメッセージを書きました。未来は見ていたいのに見る事は少しおそろしく感じています」
「夫の未来を願って手紙を出していただきたいと思います。受取ることができますように!」

 寄せ書き帳には、来館者の思いが自由につづられている。

 同館は、専用の便せんと封筒で書かれた手紙を預かり、1~5年後の書いた人が希望する月に、「心の手紙」として発送するサービスを行っている。2013年3月に始めたサービスは、メディアや口コミで話題となり、現在は、全国から多くの人が「未来への手紙」を書きに同館を訪れる。

 これまでに受け付けた手紙は約5000通。手紙は耐火キャビネットの中で大切に保管され、指定された年月が来たら郵送される。同館の理事でアドバイザー、中野シゲ子さんによると、毎月数十通単位で手紙を発送しているという。

 なぜこのようなサービスを始めたのか。きっかけは、同館の館長で不動産会社を経営する渡辺浩幸さんが、東日本大震災後の約3カ月後に参加した宮城県南三陸町でのボランティア活動だった。渡辺さんは、活動を通して「人と人との心のつながり、きずなが大切」だと感じ、「未来に届く手紙を出せたら、さらに思いやきずなが強まるのではないか」と考えたのだ。

 そこで、約10年前に購入した、鳴門海峡を一望できる高台に建つ洋館に心の手紙館をオープンした。シダレザクラ約350本をはじめ、ツツジやサザンカといった季節の花々が植えられた周辺一帯は「花見山」として地元の人々に親しまれ、桜の季節には多くの人々でにぎわう。美しい景色を眺めながら、リラックスして思いをつづるのにぴったりの場所だ。

 アドバイザーの中野さんによると、子どもからお年寄りまで、幅広い年齢層の人々が同館で手紙を書いていく。手紙を書く目的も、「自分あてに」「結婚記念日に着くようにしたい」「病気の友人を励ますため」などとさまざまだ。

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泣きながら筆をしたためる人も…