SNSやメールが全盛のいま、あえて手紙を希望する年月に送るサービスが、ひそかな人気を集めている。人は、未来に届ける手紙にどのような気持ちを託しているのだろうか。サービスを提供する徳島県鳴門市の観光施設「花見山・心の手紙館」を訪ねた。
【写真】手紙は美しい景色を眺めながら、専用の封筒にしたためる
「母に会えたような気がしてここに来ることができて良かったです」
2016年秋、同館を訪れた男性が寄せ書き帳につづった言葉だ。亡くなった母親から届いた手紙が同館で書かれたものだと知り、訪れた。「ありがとうございます」。寄せ書きは、感謝の言葉で締めくくられていた。
「心の手紙書きました。届くのが楽しみです」
「3年後の自分へのメッセージを書きました。未来は見ていたいのに見る事は少しおそろしく感じています」
「夫の未来を願って手紙を出していただきたいと思います。受取ることができますように!」
寄せ書き帳には、来館者の思いが自由につづられている。
同館は、専用の便せんと封筒で書かれた手紙を預かり、1~5年後の書いた人が希望する月に、「心の手紙」として発送するサービスを行っている。2013年3月に始めたサービスは、メディアや口コミで話題となり、現在は、全国から多くの人が「未来への手紙」を書きに同館を訪れる。
これまでに受け付けた手紙は約5000通。手紙は耐火キャビネットの中で大切に保管され、指定された年月が来たら郵送される。同館の理事でアドバイザー、中野シゲ子さんによると、毎月数十通単位で手紙を発送しているという。
なぜこのようなサービスを始めたのか。きっかけは、同館の館長で不動産会社を経営する渡辺浩幸さんが、東日本大震災後の約3カ月後に参加した宮城県南三陸町でのボランティア活動だった。渡辺さんは、活動を通して「人と人との心のつながり、きずなが大切」だと感じ、「未来に届く手紙を出せたら、さらに思いやきずなが強まるのではないか」と考えたのだ。
そこで、約10年前に購入した、鳴門海峡を一望できる高台に建つ洋館に心の手紙館をオープンした。シダレザクラ約350本をはじめ、ツツジやサザンカといった季節の花々が植えられた周辺一帯は「花見山」として地元の人々に親しまれ、桜の季節には多くの人々でにぎわう。美しい景色を眺めながら、リラックスして思いをつづるのにぴったりの場所だ。
アドバイザーの中野さんによると、子どもからお年寄りまで、幅広い年齢層の人々が同館で手紙を書いていく。手紙を書く目的も、「自分あてに」「結婚記念日に着くようにしたい」「病気の友人を励ますため」などとさまざまだ。