長澤を降ろして3バックにしていたら試合はどうなっていたのか。結果論でしかないが、守勢に入るわけではないというメッセージを伝える意味でも、4バックの維持は正解だったのだろう。長澤をピッチに残し、興梠と2人に加えて疲労感のある柏木陽介、ラファエル・シルバの4人を2トップの位置にローテーションしながらバランスの維持を図った。試合途中で左サイドハーフに代わった興梠は「ラファ(シルバ)が勝手に中に来た感じ」と話していたが、シルバは「堀監督が自分のスピードを生かす決断をしてくれた」と明確なベンチからの意図があったことを明かしている。

 さらにズラタンをサイドハーフに入れたが、交代したのは興梠だった。第1戦で負傷交代し、出場も危ぶまれたシルバを交代させずにピッチに残すのは難しい判断だ。しかし、その決断が後半43分の決勝ゴールを導いた。武藤雄樹が相手の背後に出したボールに反応したのはシルバだった。シルバは武器であるスピードで一気に抜け出すと、強烈なシュートを叩き込んだ。

 堀監督は、相手の長所を消しながら先にアウェーで試合をして手の内を分析できる状況を最大限に生かした。しかし、その緻密な準備があっても、最終的に試合の勝負どころでの決断はどこか“勘”のようなものが必要になる。そうした意味では、この決勝の2試合での堀監督は名采配を振ったということだ。

 堀監督は「今日のゲームは第1戦の戦いを踏まえた上で、短い期間でしたが、選手と一緒に準備してきました。その準備してきたものがしっかりと出せた中で、勝利を得ることができたと考えています」と冷静に振り返った。浦和が10年ぶりのアジア王者に輝いた決戦の勝利には、一夜明けて来季以降も続投することが発表された温厚な指揮官による鋭い采配が光っていた。(文・轡田哲朗)