その点、内村にはアンチが少ない。薄味だからどこにでも馴染むし、どんな企画にもピタッとはまる。それが彼の強みだ。司会をやっているときにも、内村は派手にボケたり、ツッコんだりといった芸人っぽい動きをすることはあまりない。笑顔を見せながら、明るい雰囲気で番組を淡々と進行させていく。

 明石家さんまの番組に出ているとき、多くの若手芸人は緊張してしまうという。いつ話が振られるか分からない、振られたら結果を出さないとまずい、などと考えてしまうからだ。しかし、テレビの画面越しに見ている限り、内村の番組にはそのような緊張感が感じられない。芸歴が何十年も下の後輩に対しても、内村は優しく話を振る。だから若手ものびのびと動くことができる。

 このような内村の優しさはどこに由来しているのか? それは、彼がコントを本業とする役者気質の芸人だからではないかと思う。内村はもともと映画監督を目指して専門学校に入った。そこで南原清隆という相方に出会い、コンビを組んで芸人として活動することになった。

 もともと裏方志望だったことからも分かる通り、内村にはタレントとしてスポットを浴びたいという欲があまり感じられない。コントで何らかのキャラクターになりきっているときは生き生きしているが、バラエティ番組で素に近い状態を見せているときはウソのようにおとなしい。この2つの落差が激しい人は役者気質の芸人だと言える。

「自分が面白い人間だと思われたい」というのと、「面白いコントを演じたい」というのは、似ているようで違う種類の欲望だと思う。内村には前者が欠落しているように見える。

 だから、内村はバラエティ番組に出ているときにも、目先の笑いを取りに行かない。ガツガツしていない。それよりも、共演する人の面白さを引き出し、場を盛り上げることに専念している。その真摯な姿勢が多くの視聴者に好印象を与えているのだろう。年々バラエティ化する『紅白』の仕切りを任せるにはうってつけの人材だと思う。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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