「緊急受け入れ病院」制では、埼玉県が認定する施設で、受け入れを2回断られた患者に対し、3回目で必ず対応することが義務づけられます。埼玉県によれば、タブレット端末の導入により、受け入れ照会が4回以上の「たらい回し」患者は14%減少したそうですが、この程度では問題は解決するとは思えません。「緊急受け入れ病院」を指定し、補助金と引き替えに救急車を引き受けさせても、他の患者を治療している間、病院のベッドで待ってもらうことになります。結局、救急隊の代わりに当直医に責任をなすりつけるだけです。脳卒中や心筋梗塞の治療は時間との戦いです。こうした形骸的な対応は患者にとって決していいことではありません。

 医師不足が深刻な千葉県や埼玉県で、「救急患者のたらい回し」を減らすには、医師を増やすしかありません。ところが、それが困難です。医師会や医学部経営者など既得権者の思惑が絡むからです。

 既得権を打破するには、市民が問題を認識し、既得権者を批判する必要があります。そうすれば行政や政治は動かざるを得なくなります。

※『病院は東京から破綻する』から抜粋

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上昌広

上昌広

上昌広(かみ・まさひろ)/1968年生まれ。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所理事長。医師。東京大学医学部卒。虎の門病院や国立がんセンター中央病院で臨床研究に従事。2005年東京大学医科学研究所で探索医療ヒューマンネットワークシステムを主宰。16年から現職。著書に病院は東京から破綻する(朝日新聞出版)など

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