その一方で、タカ派の記者として知られるニューヨーク・ポスト紙のジョエル・シャーマンは11月18日にこう記している。

「故障が起りやすいといったような理由で、大谷の二刀流への挑戦を妨げるべきではない。MLBチームの人間は彼を投手として考えているが、一方で彼を実際に見たスカウトたちは打者としても通用すると見ている。可能かどうか、私も見てみたい。ベースボールは楽しむもので、ふたつのことをやり遂げられるかを目撃するのは私も楽しみだ」

 投手としてはともかく、打者としてメジャーで即戦力になるかはやはり未知数である。少なくとも渡米当初はかなり苦しんでもまったく不思議はない。そんな可能性を考慮した上で、それでも興味はそそられる。未知数でも、いやそうであるからこそ、大谷の挑戦は誰にとっても興味深いのだ。

 そしてもうひとつ。大谷が主に関係者、メディアを惹きつけているのは、少なくとも現時点で彼が何をプライオリティーにしてチーム選びをするのかがまったく見えないことだ。あと数年待てば、おそらく総額1億ドル以上の契約が望めるにもかかわらず、現時点で渡米してくることを考えると、優先事項は“お金”ではあるまい。

 大事なのは即座に優勝を狙えることなのか。むしろ、自身が看板になれる若いチームの方が希望なのか。二刀流を本人の望むペースでこなせることは必須事項なのか。西海岸、東海岸のどちらを好むのか。ナ・リーグよりも指名打者制度のあるア・リーグのチームにアドバンテージがあるのか。田中将大を擁するヤンキース、前田健太が属するドジャースのように日本人選手を持っているチームを居心地が良いと感じるのか。それとも同国人の先輩がいない球団で新たなストーリーを築きたいのか。

 これらの問いへの答えがまったく見えてきておらず、推測するしかない。そのように極めてミステリアスであることが、報道合戦の火に対する油になっているのだろう。この騒ぎは大谷の行き先が明らかになるそのときまで終わらないはずだ。

 大谷が自身の意志を語り、すべてのミステリーが明らかになる瞬間まで、全米を巻き込んだ盛大な狂騒曲は続いていくに違いあるまい。(文・杉浦大介)