民営化を遅らせて天下りを温存するには、政府系金融機関としての存在意義を示さなければいけない。当然、トップは実績を求めて現場にハッパをかける。とりわけ、民営化阻止の口実である、「危機の時には中小企業のための政府系金融機関が必要だ」という「錦の御旗」を明確にするために、「危機対応融資」の融資先を増やし、その融資実績を大幅に拡大したのは、ある意味当然の成り行きだった。

「リスクが高い」と尻ごみする民間銀行に代わり、〝最後の貸し手〟として「不運にも危機に陥った」中小企業に低利の資金を融資して、その企業が苦境を脱していく。そうした「美しいストーリー」を実現するためだからこそ、発生した収益減については、最終的に国が出資をして補填するというスキームが認められ、それが商工中金の存在意義を示すことになる。  

 その原資として商工中金が国に要求した予算は12年度だけで、何と1兆5千億円を超えた。巨額のビジネスだ。

 しかし、予算があるからそれだけ巨額の融資ができるかと言うと、実はそんなに甘くはない。なぜなら、やみくもに実績を上げようとすると、危ない企業への融資が増え、焦げつきも増大する。企業の再生につながらず、損失だけが膨らめば、単なる税金の無駄遣いだということになり、それはそれでトップが責任を問われる。そんな事態は防がなくてはならない。まさにディレンマに陥るわけである。

 そこで、商工中金は優良企業を“資金繰りに困っている会社”に見せかけ、そこに融資するという禁じ手を使ってしまった。これなら貸し金が焦げつくリスクを抑えつつ、「危機対応融資」の美しいストーリーを演出することができる。

 中小企業の生き残りを助けるための金融機関なのに、自分の組織と親元の役所の生き残りのために「危機対応融資」を悪用するとはまさに本末転倒と言うほかない。

■予想通りの「民業圧迫」の実態

 今回明るみに出た優良企業への低利融資は、当然、官による「民業圧迫」だ。本来なら、優良企業は民間の金融機関から借金をすればよいのだが、「危機対応」を装えば、民間よりも低い金利を提示できるため、商工中金が民間から優良顧客を横取りすることも可能になる。

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