■信念さえ曲げなければ思いは伝わる!

 2017年3月21日(現地時間)――。小久保監督率いる侍ジャパンはWBC準決勝が行われるアメリカ・ロサンゼルスにいた。アメリカとの決戦を控えた試合前、選手たちを前に「最後のメッセージ」を行った。ここで小久保は知人の僧侶に教わったという言葉を披露したという。

「この日のメッセージで僕が選手たちに伝えたのは《莫妄想(まくもうぞう)》という言葉でした。大事な試合の直前に、《莫妄想》という聞き慣れない言葉を聞いて、選手たちは何を感じたのでしょうね(笑)」

 小久保によれば、「莫妄想」とは、「いろいろ考えても仕方のないことは考えない。今やるべきことだけに集中する」という意味であり、「過去にとらわれず、未来におびえることもなく、今を生きる。妄想を断ち切り、今自分にできることに専念する」などの意味があるという。

 結果的に小久保率いる侍ジャパンはこの日の準決勝・アメリカ戦に敗れて「世界一」の称号を手にすることは出来なかった。それでも、彼の胸には清々しい達成感が芽生えていたという。

「(15年の)プレミア12も、(17年の)WBCも、ともに《準決勝敗退》という事実は一緒でした。いずれもファンの方々の期待に応えることは出来ませんでした。けれども、WBCが終わったときに、“侍ジャパンの監督を引き受けてよかった”と素直に思えたんです。それは自分でも意外な感覚でした」

 このときすでに、小久保は選手たちの「成長」を実感していたという。勝負は時の運であり、世界一となることは出来なかった。しかし、選手たちが人間的にひと回りもふた回りも大きく成長することは、自身の信念さえ曲げなければ必ずできる。世代の異なる若者にも、必ず自分の思いは必ず伝わる。

 監督就任時に抱いた思いを現実にできたからこそ、小久保は達成感を覚えることができたのだ。1278日間にわたる「小久保の挑戦」は見事に成果を挙げたのだった――。