■「小久保野球」は「精神論野球」

 もちろん、チームとしての戦術、作戦については奈良原浩ヘッドコーチを筆頭に、全コーチ陣を交えた徹底的なミーティングは怠らなかった。しかし、選手たちに口を酸っぱくして何度も伝えたのは、いわゆる「精神論」ばかりだった。この点について、小久保は言う。

「柔道や、剣道などの武道では、“礼に始まり、礼に終わる”という考え方が徹底されています。もちろん、野球選手もグラウンドに入る際には一礼するし、試合後グラウンドを出るときにも一礼をします。あるいは、高校野球では必ず試合前と試合後に一礼をします。僕は、こうした姿勢をとても大切に思うし、侍ジャパンにおいても重視しました」

 そして、小久保は続ける。

「監督就任以来、“小久保野球とは?”と、何度も聞かれました。そのたびに僕は“小久保野球とは、精神論野球です”と答えてきました」

 しかし、平成生まれが大半を占めるようになった若き侍ジャパン戦士たちに、いささか古めかしい「精神論野球」を浸透させることが、果たして本当に「世界一」実現のための最適な方策なのだろうか? 小久保は言う。

「現代では、精神論は古くさくて非合理的だという考えがあることはもちろん知っています。しかし、各チームを代表して侍ジャパンに呼ばれるような選手には、技術的に新たに指導することなど何もありません。彼らはすでに一流の技術を持っているからです。では、僕が彼らに対してできることは何か? それが“精神論を伝える”というということでした。たとえ、“時代遅れだ”“古くさい”と言われようとも、“小久保野球は精神論野球”だという信念に、一ミリもブレはありませんでした」

 上記の考え方を徹底させるために、小久保は何度も、何度も選手たちに「グラウンドではツバを吐くな」「きちんと帽子をかぶれ」と言い続けた。その結果、中田翔、筒香嘉智ら若い選手たちの振る舞いに、少しずつ変化が見られたという。

 こうして、選手たちに「小久保の教え」が徹底されるにつれて、選手たちは次第にまとまりを見せ始め、チームスローガンでもあった「結束」が少しずつ実現していったのである。

次のページ