■第3の人類

 現生人類(ホモサピエンス)に最も近いのはネアンデルタール人であるが、この2種と共存した第3の人類がデニソワ人である。2008年にロシア西シベリアのデニソワ洞窟で発見された子どもの骨と、成人の臼歯のDNA解析から、彼らは100万年ほど前に現生人類と別れ、さらにネアンデルタール人と64万年前に分岐したと推定されている。

 出土品が極めて少なく、どのような生活環境にあったのか全く分からないが、おそらく低温低酸素に適応し、彼ら(彼女ら)と交雑した現生人類の中でヒマラヤ高地に住む人々が有利なEPAS1を受け継いだのだろう。

 さらにごく最近、自然免疫に関与するTLR1とTLR6、TLR10で、アフリカ人に見られないハプロタイプが日本人を含む東アジア人に見つかり、その一つがデニソワ人由来ということが判明した。免疫の進化には病原微生物が非常に重要な役割を果たすので、我々の先祖はアフリカの地を出て、日本列島に至る長旅の中で様々な感染症と出合い、シベリアや中央アジアにいたデニソワ人やネアンデルタール人(あるいはその血を引く人々)と交雑して遺伝的多様性を広げていった。

 雪男は数万年前、確かに酷寒のシベリアからヒマラヤに生存し、われわれの先祖と交際していたのである!

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早川智

早川智

早川智(はやかわ・さとし)/1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に戦国武将を診る(朝日新聞出版)など

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