グラミー賞が他の音楽賞にはない権威を持っている理由

連載「六九亭日乗」

大友博dot.#大友博
大友博(おおともひろし)1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など
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大友博(おおともひろし)1953年東京都...

「MUSICARES」という言葉をご存知だろうか?

 もちろん普通の辞書に載っている言葉ではなく、MUSICとCARESを合体させたもので、グラミー賞の運営母体レコーディング・アカデミー(NARAS)が1989年に設立した福利厚生基金の名前だ。その目的は、健康面や経済面などで苦しい状況に陥ることとなった音楽関係者に救いの手を差し伸べること。

 グラミー賞というと「豪華な音楽賞イベント」というイメージをお持ちの方が少なくないと思う。日本も含めた多くの国に生中継もされている授賞式でのライヴ・パフォーマンスはたしかに究極の音楽エンターテインメントではあるが、しかしそれがすべてではなく、グラミーは音楽教育や音楽遺産の保護、ミュージアムの展開など、さまざまな社会活動にも積極的に取り組んできた。

 また、音楽制作のほぼ全分野をカヴァーした約80の賞の候補者や受賞者の選定に際しては、原則的にレコード売上は重視されず、人気投票的な要素は極力排除されている。そんなわけで、別の国の音楽賞を軽々に「~のグラミー」などと呼ぶべきではないと以前から勝手に思っているのだが、その件については、また別の機会に書いてみたい。

 さて、MUSICRAESでは、1991年以降、毎年一人のアーティストをパーソン・オブ・ジ・イヤーに選び、その音楽的功績を表彰してきた。選出にあたっては、当然のことながら社会的活動への貢献が重視されるわけだが、そのなかには広く知られていないものもあり、顕彰という言葉を使ってもいいだろう。

 これまでの主な受賞者は、デイヴィッド・クロスビー、スティーヴィー・ワンダー、エルトン・ジョン、ポール・サイモン、ボノ、スティング、ドン・ヘンリー、ニール・ヤング、ポール・マッカートニー、ブルース・スプリングスティーン、ボブ・ディラン、キャロル・キング。今年2017年は、トム・ペティだった。授賞パーティーは例年グラミー賞授賞式(1月下旬~2月上旬)の2日前に行なわれるので、つまり彼は、亡くなる8カ月前にその音楽的功績と社会貢献を称えられていたことになる。

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