アホに出会っても、間違っても「やり返してやろう」と思ってはいけない。実は、あなたのそうした思考が、最も危険なのだ。

 元政治家であり、現在はシンガポール・リークワンユー政治大学院で教鞭を執る田村耕太郎氏は、自著『頭にきてもアホとは戦うな!』(朝日新聞出版)で“アホ”と戦わない方法をとことん紹介している。

 社会が個人を守ってくれない現代社会で、アホにやられず生き抜くために必要なものとは何なのか? 田村氏に教えてもらった。

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 アホとかかわる時間を究極に減らすためには、モビリティを持つことを強くお勧めする。あなたがその場から動けないことが、アホとかかわらなくてはいけない究極の理由になっていることが多からだ。アホをスルーするため、アホから逃げるため、その場を立ち去るオプションを持つのだ。

 そのためには目の前のことにしっかり集中して結果を出すことだ。そしてそれを、モビリティを持てるかどうか、カギを握る人物にきちんと評価してもらうことだ。仕事のパートナー選択権やチームの編成権を持っている上司に「この人の言うことをまず聞こう」と思わせるのだ。アホがかかわってきたときも「この人に結果を出してもらわないと困るからアイツからブロックしてあげよう」となる。

 最悪のシナリオはその権利を持つ人たちがアホだった場合である。もちろん結果を出し続けることで彼らを翻意させることができるかもしれない。それはそれでいい。しかし、大きな組織になれば、その部署での個人の貢献くらい握りつぶせる場合がある。多少の結果に目をつぶっても人の好き嫌いや社内のいじめを優先させるアホ上司がまだいるのだ。

 この場合はその組織を飛び出す覚悟が必要だと思う。こんな理不尽なことを我慢をして「安定」を買うのも一理あるが、ストレスや不幸をため込んでまで人生の最大の財産である「時間」をこんな連中に売り渡すことが、長い目でみて正解であろうか?

 日本社会はこれから急速に変わっていく。サラリーマンがなくなるわけではないし、多くの大企業は安定した雇用先として存在し続けるだろう。しかし、大企業の安定が急に揺らぐ事例は、東芝の件にもあるように、今より頻発してくるだろう。大企業において長期雇用は保証される期間が全体的に短くなり、本当に保証される人数も絞られてくるだろう。そして長期雇用の勝ち組になっても、その引退後すぐに年金等の社会保障が死ぬまで面倒を見てくれるとは限らない。

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