これは子どもが不登校になって悩んでいる保護者から、最も多く受ける質問です。1日でも早く“ふつう”に戻ってほしいと考えるからでしょう。

 実は不登校の人のうち約3割が年度内に学校へ再登校を始めています。前述のように高校進学者は85%です。つまり、年度内に3割、高校進学ごろには85%の人が不登校を「終える」とも言えます。

 そう説明するとみなさんホッとします。しかし、本人の内面では葛藤を抱えている場合があります。私が取材したなかでも「自信が持てない」「朝、起きられない」「コミュ症になった」「人間関係にトラウマが残っている」「なぜ自分はふつうになれないのか」と悩みを抱える人はたくさんいました。

 こうした「不登校由来の悩み」が続く人に、数学者・森毅さんは講演でこんなアドバイスをしていました。

「あなたが『正解がわからない』と思うことに出会っても、すぐの正解は求めなくてもいいんです。もしも『一生、正解が解らない』と思うことに出会えたら、それはあなたの財産です」

 アドバイスの背景になっているのは「解けそうにない難問」に魅せられた偉大な数学者や科学者たちです。周囲からは理解が得られなくても「問い続けること」に意味があること、それを森さんは感じていたのでしょう。

 私自身も「なぜ自分は学校とあわないのか」と考えてきたことが、人生の指針になり、仕事の基盤にもなっています。不登校で悩んだことは、まさしく私の財産です。

 不登校は周囲が思った以上に早く終わることも多いです。しかし、「終わらない不登校」、つまり不登校を卒業してからも自分自身の問いと向き合っているからこそ、人生が豊かになった人もたくさんいます。そのことはぜひ知っておいていただけたらと思っています。

(文/石井志昂)

【参照データ】平成28年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」、「不登校に関する実態調査」(ともに文科省)、平成28年度「若者の生活に関する調査報告書」(内閣府)

石井志昂(いしい・しこう)/1982年、東京都町田市出身。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員や校則、いじめなどを理由に中学2年生から不登校。同年、フリースクール「東京シューレ」へ入会。19歳からNPO法人全国不登校新聞社が発行する『不登校新聞』のスタッフとなり、2006年から編集長。これまで、不登校の子どもや若者、識者など400人以上に取材してきた