私は「完全無痛分娩」の病院を選びました。それを気のおけない友人に伝えたとき、やはり「無痛に関してはいい感情をもってない人もいるから、周りにはあんまり言わないほうがいいかもね」というアドバイスをもらいました。子宮口の開き具合をみて日程を決め、麻酔を準備し促進剤を入れるシステムに対し、義母は「赤ちゃん自身に誕生日を決めさせてあげられなくて可哀想」と言っていました。

 人に何を言われようが私はそういった精神論は気にならないので、物理的なメリットデメリットを比較して決めました。そもそも、最初は朝も昼も分からない胎児が「そうだな、自分は暖かくなってくる5月の7日当たりに生まれたい」などと考えているわけないのです。羊水が少なくなってきたから、予定日をかなり過ぎたから、というように、子どもの命のために出産日を決めることだってあります。そんな人たちに「自然がいちばん」などと言えるでしょうか。

 私に限らず誰だって痛いのは怖いはずです。いまだに注射だって嫌なくらいなのに、出産になると、痛すぎて脳が「痛みを和らげる脳内麻薬のエンドルフィン」を出してくるレベルらしいのです。臨月になって毎日を恐怖におののいてストレスをためてしまう人は、精神的に安心して「早く我が子に会いたい」と思いながら過ごせるなら、そのほうが子どもを愛しく思えるんじゃないかと思うのです。それに、すぐ退院できるなら医療費だって相当節約できます。出産しやすくなるなら、少子化の解決にもつながるでしょう。私は、無痛分娩で産んだ人が責められたり、罪悪感をもったりしなくてはいけない風潮には疑問をもっています。

 先日、無痛分娩による事故のニュースが報じられ、リスクと危険性が話題になっていました。しかし、ここで「やはり無痛分娩は危ない」と片づけるのは、単なる思考停止です。無痛分娩が上手くできる医者が少ないのは、日本でやろうとする患者が少ないからです。医者の腕は、こなしてきた症例数に比例すると思います。1週間に1個カバンを作る人と、1日に10個カバンを作る人では、職人として腕の良さが違うのは当然です。ほとんど無痛分娩をする人がいないのに、個人病院にちゃんとした麻酔科医を毎日雇っておけるかという問題もあります。

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