戦前には沖縄、九州のみならず、本州での発症もまれでなかったが、公衆衛生の向上により1962年以降の国内報告はない。マラリアに対してはなかなか有効なワクチンができないが、蚊の撲滅などインフラの整備が有効である。面白いことに、中国でマラリアに対して古くから民間薬として使用されてきた青蒿より、マラリア原虫の生存に不可欠な酵素を阻害するアルテミシニンが(2015年ノーベル医学生理学賞受賞)によって分離された。平安の当時、清盛が開いた福原(神戸)には多数の宋の商人が来航していたであろうが、青蒿を献上する宋人はいなかったのか、残念である。

 64年の生涯を後白河院や、摂関家、ライバル源氏との戦いに明け暮れた武家の棟梁にとって、畳の上の死とはいえ、我が身のうちの修羅道で迎えた最期であった。さらに、最大のライバルだった後白河法皇も、約10年後に同じ病で生命を落とすことになる。

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早川智

早川智

早川智(はやかわ・さとし)/1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に戦国武将を診る(朝日新聞出版)など

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