さて、本稿冒頭で触れたボブ・ディランがその音楽性や作風を高く評価していたロック・アーティストの一人、トム・ペティが10月2日、66歳で亡くなった。9月までは彼が中心となったバンド、ザ・ハートブレイカーズの40周年を祝うツアーで元気にステージに立っていたようなので、まさに「突然」という印象だった。日本が嫌いだったのか、興味がなかったのか、ステージに立つ姿を生で観ることができたのは、86年にディランと来日したときだけ。しばしばライヴの大切さを熱く語ってきた人だけに、残念でならない。

 その突然の訃報に触れて以来、トム・ペティ関連のさまざまな曲を聴いていくなか、あらためて「いい曲だな」と意識するようになったのが、「エンド・オブ・ザ・ライン」。80年代末、ディラン、ジョージ・ハリスン、ロイ・オービソン、ジェフ・リンと結成したトラヴェリング・ウィルベリーズのファースト・アルバムの最後に収められていた曲だ。

 5人がウィルベリーズ姓を名乗るこの覆面グループは、すべての曲を共作としてクレジットしているのだが、全員でコーラスを歌い、ヴァースはペティのみという構成の「エンド・オブ・ザ・ライン」は、明らかに彼を中心に書かれたものだろう。彼はそこで「遠く離れたどこかで 僕を想ってくれるだろうか」と歌っている。30代後半のシンガー・ソングライターが先輩たちと楽しみながら残した曲は、また一つ、新たな意味を持つこととなった。(音楽ライター・大友博)

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大友博

大友博

大友博(おおともひろし)1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。dot.内の「Music Street」で現在「ディラン名盤20選」を連載中

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