酒井高徳によれば“ハリルジャパン”ではこれまでサイドハーフがサイドバックの上がりを引き出すような練習は特別していないという。しかし、ボールを持つ状況でもともと持つスキルとビジョンで仲間と流動的にチャンスを生み出す質の高さは目を見張るものがある。

「得点を取ったり、裏に抜けるというところが一番求められているところなので、そのへんはやりつつ、落ちつかせるところは落ちつかせて、自分が左で出ていたら右サイドは(浅野)拓磨か(久保)裕也か、違いがあるので、その選手の特徴を生かしたり、FWの選手の特徴を生かしたりとか、サイドバックの選手のいいところを出していくというのはやっていかないといけない」

 試合の前にそう語っていた乾の狙いが前半の途中までは随所に出たが、最初の失点をした後あたりから見られなくなった。その状況でも前半36分にはペナルティーエリアの左脇から鋭いドリブルで右足を振り抜く惜しいシュートを放つなど、個人としては見せ場も作った。それも乾のひとつのスペシャリティーだが、やはり周りとの連動をうまく使ってこそ、得点の可能性は大きくなることは間違いない。

「前半は、(長友)佑都くんとの関係も良かったですし、(倉田)秋がいいタイミングで後ろにサポートしてくれたのと、槙野くんがいいタイミングでいいボールを入れてくれていた。その辺でいい関係ができていたんじゃないかなと思いますけど、1点目取られてからですね。流れがすごく悪くなって、自分たちで苦しくしてしまった」

 後半は途中から香川真司が入ったことで、後半35分に武藤嘉紀と交代で退くまでの短い時間ながら2人のコンビネーションで相手のディフェンスを崩しかけるシーンもあった。そこは可能性を感じさせる組み合わせだが、出場した80分間を通して評価すると、チームの機能が低下したところから良い状態に引き戻す選手ではないということだ。

 どんな流れであろうと乾がボールを持って前を向けば相手にとって危険なシーンを生み出すことは可能だが、周りに攻守のバランスやビルドアップの安定などお膳立てをできる選手がいてこそ、乾が明確なアクセントとして機能し、そこから得点チャンスが生まれる。ここから乾という世界にも通じる武器をどう活用して戦うのか。ハリルホジッチ監督はもちろん、ともにピッチに立つ選手たちのビジョンの共有も問われてくる。(文・河治良幸)