ジャクソンの前回の来日は、2015年春。グレッグ・リースとヴァル・マッカラムという2人の優れたギタリストを中心にしたバンドとのライヴを東京と名古屋で計4回観たが、どれも充実したもので、ジャクソン本人も彼らとつくり出す音を心から楽しんでいるようだった。同時期に来日していたCSNのステージに飛び入りし、グレアム・ナッシュと歌った「ザ・クロウ・オン・ザ・クレイドル」も強く印象に残っている。60年代に書かれたそのプロテスト・ソングは79年の反核コンサート『ノー・ニュークス』でも彼らが歌っていたもの。それをフクシマから4年後の日本で歌ったわけだ。そういった曲の選び方というか、状況に応じてきちんと音楽に向きあう姿勢が、彼らに長く歌いつづける力を与えてきたのだろう。

 ジャクソンは広島公演でも「ザ・クロウ・オン・ザ・クレイドル」を取り上げているのだが、その貴重なトラックを含む2015年日本録音のアルバム『ロード・イースト - ライヴ・イン・ジャパン』が来日記念盤としてリリースされた。「バリケーズ・オブ・ヘヴン」「青春の日々」「シェイプ・オブ・マイ・ハート」など10曲が収められている。おそらく「バンドとしての音」を基準に選曲が行なわれたものと思われ、自らマスタリングも担当したジャクソンが楽しみながら卓に向かっている姿が目に浮かんでくるようだ。

 最後にもう一ネタ。5月に亡くなったグレッグ・オールマンは最後のアルバム『サザン・ブラッド』で、親友でもあるジャクソンの初期の名曲「ア・ソング・フォー・アダム」を取り上げていた。24歳で急逝した兄ドゥエインをアダムに重ねて、という想いでのカヴァーだったようだ。この録音にはジャクソンだけでなくグレッグ・リースとヴァル・マッカラムも参加していて、彼らの素晴らしいプレイも生かす形で、プロデューサーのドン・ウォズが感動的なテイクに仕上げている。今回の来日公演で、その若き日の旅と友情の歌を取り上げてくれないかと、ひそかに期待しているのだが…… (音楽ライター・大友博)

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大友博

大友博

大友博(おおともひろし)1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。dot.内の「Music Street」で現在「ディラン名盤20選」を連載中

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