大河ドラマが始まって11年、「国盗り物語」はその11作目にあたるが、10年間で茶の間に定着した大河は“国民ドラマ”として日本のテレビドラマの技術史、発達史の基準になっていた。しかしその反面、10年間の澱がマンネリズムを生んでいたという現実も直視しなければならなかった。

 プロデューサーを務めた遠藤利男氏は、「大河ドラマが誕生した当時の発想は娯楽劇だった。それが歴史劇へと変わってきたが歴史劇としての大河ドラマが、その重さに耐えがたくなってきていると思えてならない。今回の『国盗り物語』では歴史劇のよさを活用しながら新しい娯楽劇を求めたい」(大原誠箸『NHK大河ドラマの歳月』)」と語り、大胆に若手の起用に取り組んだ。

 それが、信長に扮した高橋英樹29歳、木下藤吉郎役の火野正平24歳、家康役の寺尾聡26歳、光秀役の近藤正臣31歳、そして松原さんは27歳と、かつてないフレッシュなキャスティングとなって表れた。

 なかでも高橋英樹は人気を博し、これを機に映画からテレビに転じてテレビ時代劇にはなくてはならない大スターへと成長していった。

 「高橋さんは日活時代に『男の紋章』という任侠シリーズで着流しを体験しているし、体型的にも和服とカツラが似合うんです。傍で見ていても信長はぴったりで驚きました」と松原さん。

 松原さんはそれ以降、「元禄太平記」「春日局」「おんな太閤記」「龍馬伝」など6作品の大河ドラマに出演、その魅力を次のように語る。

「大河ドラマはしっかりした原作がベースになっていますから、歴史を学ぶには最適のドラマだと思います。学校の歴史の授業では活字でしか学べませんが、映像だと脳裏に焼き付きますから教材としてもとてもいいのではないでしょうか。それと脚本と演出も実力のある方々が担当しますから、高橋さんのように大河からスターが巣立っていくケースが多いですね」

 演出陣はチーフに斎藤暁、セカンドに村上佑二、サードに伊予田静弘など全員を30代の若手で固め、機能性に優れているハンディカメラの使用に踏み切るなど、制作面でも新機軸を打ち出した「国盗り物語」は、次の10年にむかって気概を示した大河ドラマの記念すべき意欲作品だった。(植草信和)

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植草信和

植草信和

植草信和(うえくさ・のぶかず)/1949年、千葉県市川市生まれ。キネマ旬報社に入社し、1991年に同誌編集長。退社後2006年、映画製作・配給会社「太秦株式会社」設立。現在は非常勤顧問。

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