■苦境の民進党は森裕子参院議員に泣きつく

 泉田氏の自民党からの出馬によって、追い詰められたのは民進党だ。幹事長候補山尾志桜里氏の不倫スキャンダルで出ばなをくじかれた前原誠司新代表にとって、この三補選は最重要課題だ。少なくとも、野党側が連勝中の新潟では何としても勝ちたい。

 しかし、今の民進党には魅力がなく、民進党県連は独自候補を立てられず、野党・市民連合の事実上のリーダーである森裕子自由党参議院議員に泣きついた。もちろん、野党共闘前提だ。今後、民進党は主導権を失い、森裕子氏らが市民連合と連携しながら、候補者選びを行うことになるだろう。

 一方、だらしない民進党の動向よりもはるかに大事なのは、泉田氏の「裏切り」に対して、一般市民がどのような反応を示すかである。泉田氏を信じたいという人もまだまだ根強く存在するが、そんな泉田ファンには、是非以下のことを考えていただきたい。

 まず、泉田氏に自民党を変える力があるなどと言うのは幻想に過ぎないことは前述したとおりだ。

 そして、何よりも、泉田氏が当選して誰が喜ぶのかを想像するべきだ。泉田勝利は、脱原発の野党候補敗北を意味する。

 選挙後の安倍総理のコメントはこんなものになるだろう。

「わが自民党は、昨年、参議院選挙と県知事選で、新潟県民から大変厳しい審判を受けました。しかし、今回は、我々自民党の政策を新潟の方々に理解していただくことができた。心から感謝します。これまで通り、原子力規制委員会が安全だと判断した原発に限り、安全第一で、しっかり再稼働を推進して参ります。」

 脱原発の最後の砦とも言われる新潟での自民党勝利は、全国の原発再稼働の流れを決定的なものにするだろう。

 それだけではない。3補選で自民が2勝あるいは3勝すれば、安倍政権は息を吹き返す可能性が高い。

 問題は、こうした複雑な状況を有権者が正しく理解して投票できるかどうかだ。選挙が近づくと、マスコミは当たり障りのない報道しかしない。泉田氏を支持するにしても、野党候補を支持するにしても、十分な情報が提供されたうえでの判断となるように期待しつつ、これから約1カ月後の開票日まで、新潟5区の動向を注視していきたい。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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