珍名踏切マニアがいく! パーマ屋がない「パーマ踏切」

連載「珍名踏切が好き!」

飯山線の立ケ花(たてがはな)駅。豊野から2駅目... (11:30)dot.

飯山線の立ケ花(たてがはな)駅。豊野から2駅目... (11:30)dot.
 踏切の名称に惹かれて何十年の、いわば「踏切名称マニア」である今尾恵介さんが、全国の珍名踏切を案内してくれる連載。今回は飯山線の「パーマ」踏切を紹介します。

【その他の踏切写真と地図はこちら】

●千曲川をたどりつつパーマ踏切へ

 長野駅から飯山線で約25分、千曲川に近い上今井駅の少し南側に「パーマ踏切」はある。近くに美容院があるのかと、ネットの地図で最大限に拡大してみたが載っておらず、真相は謎だ。取材の前にはあまりやりたくはないのだが、グーグルのストリートビューも盗み見たところ、それらしき店は見当たらない。やはり現地へ行ってみなければ……。

 長野駅から乗ったキハ110系のディーゼルカーは、昔のような派手なエンジン音や石油臭を感じさせないスマートなもので、軽やかに走る。豊野駅を出て千曲川を右手に進むが、このあたりは川幅が狭く、深い色をした水の滔々たる流れはさすが日本一の長流の貫禄だ。せっかくなので、ひとつ手前の立ケ花駅から3キロほど歩いてアプローチすることにしよう。何ごとも「前奏曲」のようなものが必要である。

 駅の周囲に人家は見られない。そもそも立ケ花という地名は対岸の中野市のもので、乗客の多くもそちら側から来るようだ。現在の国道117号の旧道とおぼしきセンターラインのない道路を線路に沿って歩く。右手に千曲川、前方には高社(こうしゃ・たかやしろ)山が聳えている。別名「高井富士」と呼ばれるように、高井郡(明治12年以降は上高井郡・下高井郡)を代表する独立峰だ。

●30年以上前に移転した美容院

 リンゴ畑や森を過ぎ、上信越自動車道を跨いでしばらく進むと線路と千曲川が俯瞰できるが、道は徐々に低くなりレールとほぼ同じ高さになる。鳥居に「蚊田明神社」とある急な階段を見上げつつその先を右へ折れると、ようやくパーマ踏切にたどり着いた。他の踏切と同様に踏切名を表示する「パーマ」が妙におかしかった。

 上今井のまとまった集落の南にあたる場所なので美容院があっても不思議はないのだが、周囲を見渡してもその気配はない。とりあえず踏切の写真だけでも撮ろうとしたが、保線の仕事をしているヘルメット姿の男性が陣取っているので、カメラを向けるのも気が引ける。正直に「珍しい踏切名を訪ね歩いている」と説明すると、物好きだねえという表情を浮かべながらも、「この線は珍しい踏切が多いよ、すぐ隣は鬼坂踏切だし」と実例を挙げて教えてくれた。こんな話をすると、まるで宇宙人を見るような怪訝な表情をする人もいるので、こういう反応は嬉しい。飯山線の保線にかかわって数十年だそうだが、彼が知る限りパーマ踏切の近くに美容院などは見かけないという。

 踏切のすぐ北側のお宅に伺ってみる。1階部分がガレージのようなスペースなので、もしやここに美容院があったのかと思って、階段を上っていきなり訪ねてみた。60代後半とおぼしきおじさんが1人寝転んでテレビを見ている最中にお邪魔してしまったが、パーマ踏切の話をしたら、変な顔もせず実直に答えてくれた。さすが信州人である。

 ざっと話をまとめれば、20年 ほど前までは、もと飯山の人が営んでいたパーマ屋さんが実際にあったという。それじゃあ閉店したのは平成に入ってからですかと問えば、「いや昭和だったから30年以上は前だったかなあ……」。20年前と思って調べてみると30年、40年前だったという経験は私にもある。時の流れはまさに矢の如しである。

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