■極端な体重減少は再発や予後を左右する

 比企医師が術後の体重減少を重視するのは、患者の将来に深刻な影響を及ぼすからだ。

 体重が大きく減るのは、術後1~3カ月間。手術の傷が治り、からだが回復していく大事なこの時期に栄養状態が悪いと、縫合(ほうごう)不全や出血など術後合併症を起こしやすいことがわかっている。

 また、術後の体重減少は、「骨格筋」から痩せていくという特徴がある。骨格筋はさまざまな組織を支え動かしている筋肉なので、痩せが進めば、歩けなくなる、ものが握れなくなる、姿勢を保てなくなるなど日常生活に支障をきたす。

 さらに、体重や骨格筋の減少は再発のリスクを高め、予後を悪化させることもわかってきた。

 ステージIIAからIIICの胃がんでは、手術で目に見えるがんは取り除けても、その周囲や胃の外側にがん細胞が残ってしまい、再発や転移を起こすことがある。しかし術後に補助化学療法として経口抗がん剤TS-1(商品名)を投与すると、再発が抑えられ、5年生存率約10%の上乗せが確認できている。それには1年間服用を続けることが必要だが、口内炎や下痢、吐き気、白血球減少や、それにともなう感染症などの強い副作用が現れると、休薬を余儀なくされ、十分な治療効果がのぞめない。

 術後の体重減少とTS-1の継続率を調べた研究では、体重の減りが15%未満だった患者の約7割が半年後も飲み続けることができていた。ところが体重が15%以上減った人の継続率は、その約半分まで激減した。

 一方、骨格筋の量も5%以上減少すると重い副作用が増え、抗がん剤を続けられる割合が大幅に減ることがわかっている。

「抗がん剤は正常な細胞にもダメージを与えるので、体重が減って体力が落ちている人は、口内炎などの副作用が出やすくなります。口内炎が悪化すれば痛くて食べられなくなり、さらに体重が減る、という悪循環に陥ります。再発予防のための治療を完結できなくなってしまうのです」(比企医師)

 抗がん剤の服用を続けられなかったことだけが原因ではないが、術後体重が15%以上減少した人の5年生存率は15%未満の人よりもかなり低かった。

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