<「感情」と「疲労」の3段階>/感情の反応の大きさと、疲労の深さにはそれぞれ3段階ある。人間関係トラブルの同じような出来事(AとB)でも、疲れがたまってくると、感情の反応が2倍の大きさになってしまう。だから、まずは「疲れのケア」が大事なのだ
<「感情」と「疲労」の3段階>/感情の反応の大きさと、疲労の深さにはそれぞれ3段階ある。人間関係トラブルの同じような出来事(AとB)でも、疲れがたまってくると、感情の反応が2倍の大きさになってしまう。だから、まずは「疲れのケア」が大事なのだ

 アドラーの心理学を紹介した本、『嫌われる勇気』(岸見一郎・古賀史健著、ダイヤモンド社)は、2013年刊行後、100万部超のヒットとなった。テレビ番組での紹介や関連書籍の出版も続き、「アドラー心理学」は、対人関係に苦しむ人たちの一つの突破口として、ブームを超えて定着した感がある。その一方で「アドラーの本を読んで感動して、他人の評価を気にしないようにと努めたけれど、長続きしない……」と悩む人も出てきている。

「努力したけれど、最終的には、以前より落ち込んでしまったクライアントが結構いるのです」と語るのは、元自衛隊メンタル教官の下園壮太さん。近頃『人間関係の疲れをとる技術』(朝日新書)を刊行した下園さんは、多くの人の心の問題やトラブルに、カウンセラーとして寄り添ってきている。その経験から、「“嫌われる勇気”だけでは、人間関係はラクにはならない」と考えている。それはなぜなのか、その背景を聞いた。

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■『嫌われる勇気』はなぜヒットしたのか

『嫌われる勇気』が大ヒットしたのは、まずそのタイトルが、今の日本人の潜在的な欲求を見事にとらえたからだと思います。それだけ、私たちは「人に嫌われたくない」「他人に好かれなくてはいけない」という強い意識を持っており、それに縛られているのでしょう。「嫌われる勇気」を持ちなさい、持っていいんですよというタイトルが、多くの人に光を与えたのだと思います。

 さらに、アドラーの主張も、現代の日本人の心に響きました。アドラー心理学のおもな特徴を私なりにまとめると、

「すべての悩みは、人間関係にある」
「悩みは、記憶や経験などの過去の原因から生み出されるものではなく、その人の影の欲求により生ずる(例えば、親に心配されたいから学校にいけない)」
「人の評価など気にせず、自分の幸せは、自分で勝ち取るべきである」

 という3点になります。

 人づき合いに疲れている現代人は、人の目を気にして我慢ばかりしてしまう性格に自分がなったのは、親の育て方が悪かったからだ、などと他人や過去のせいにして考えがちです。

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