「難治がん」と闘う新聞記者が、突然憎しみを覚えた「小鬼」の声

連載「書かずに死ねるか――「難治がん」と闘う記者」

 働き盛りの40代男性。朝日新聞記者として奔走してきた野上祐さんはある日、がんの疑いを指摘され、手術。厳しい結果であることを医師から告げられた。抗がん剤治療を受けるなど闘病を続ける中、がん患者になって新たに見えるようになった世界や日々の思いを綴る。

*  *  *
 つい先日、身体障害者手帳を受け取った。

 区役所の長椅子には何人か待っていて、こちらが窓口に近づくと、1人がちらりと見た。

 窓口の職員に歩み寄ったが、微笑むだけで何も言わない。おや、と思い、もう一歩そばによると、ようやく「本日はどのようなご用件で……」と小声で尋ねられた。

 声はふつう相手に聞かせ、何かを伝えるものだ。だがここでは、ほかに聞かせないこともまた大切なのだ、と感じた。

 手帳の説明でも、ここぞという話になるととたんに声が小さくなる気がする。たとえば、手帳をもらうきっかけになったお腹の人工肛門の話などだ。そうでないと嫌がる人がいるのかもしれないが、少々まどろっこしい。構わずいつものようにしゃべった。それをゴーサインだと受け取ったのか、相手も同じような調子で話し出した。

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