広陵・中村(左)と早実・清宮 (c)朝日新聞社
広陵・中村(左)と早実・清宮 (c)朝日新聞社

 今年の高校野球を語る上で一つのキーワードになるのが「ホームラン」である。夏の甲子園では史上最多68本のホームランが飛び交い、あらゆるマスコミでも大きく取り上げられた。そして個人では、高校通算ホームラン記録を更新した清宮幸太郎(早稲田実)と、甲子園一大会最多となる6本塁打を放った中村奨成(広陵)の2人が中心となっていることは間違いない。ともにU-18ベースボールワールドカップ代表に選出され、チームの要を担う存在となっている。10月に行われるドラフト会議に向けて、さらに注目度の高まることが予想されるが、改めて2人がこれだけホームランを打てる理由についてお互いを比較しながら検証したいと思う。

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 まず、2人に共通して言えることは『好球必打』ということである。以前、清宮と安田尚憲(履正社)を比較した記事でも触れたが、清宮はとにかくストライクの見逃しが少ない。今年のセンバツ2試合では、10打席のうち9打席でファーストストライクに手を出し、そのうち4打席が初球打ちだった。入学直後から高い注目を集め、厳しいマークの中で戦ってきており、打てるボールが1打席の中で1球あるかないかという状況で結果を残すために、このようなスタイルになったと考えられる。

 一方の中村も、夏の甲子園32打席のうち19打席でファーストストライクに手を出している。6本のホームランのうち4本がファーストストライクを打ってのものだった。8月28日に放送された『クローズアップ現代+』(NHK)に出演した秀岳館(本)の鍛治舎巧監督も、自身のチームで力のある2投手の決め球は打たれないと読んでいたが、決め球を投げる前に打たれてしまったと話していた。清宮ほどではなくとも、中村も積極的に打つスタイルであることがよく分かるだろう。

 ちなみに、甲子園6試合で中村が見逃したストライク11球のうち5球は決勝戦のもので、花咲徳栄(埼玉)バッテリーがうまく攻めていたことがうかがえるデータである。

 次にスイングの形だが、これは両者で特徴が大きく異なる。清宮のスイングは、堂々とした体格とは対照的にとにかく動きが小さい。構えた時は力を抜くためにバットを小刻みに動かすが、右足を上げてトップの形を作ってからは、グリップの位置が動くことはほとんどない。無駄な動きがなくシャープに振り出すことができており、ミート力の高さがうかがえるスイングだ。そして、高校生離れした飛距離を生み出している原動力は鋭い体の回転である。上半身と腕は力みを抜き、下半身と体幹で体を回転させてヘッドを走らせるのだ。軽く合わせたように見えてもフェンスを超える理由はここにあり、長打力と確実性を兼ね備えているのもよく分かるスイングである。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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