珍名踏切マニアがいく!「共栄館」踏切の謎を追ってたどり着いた“ある場所” (2/2) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

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珍名踏切マニアがいく!「共栄館」踏切の謎を追ってたどり着いた“ある場所”

連載「珍名踏切が好き!」

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駅舎が新しくなった北飯山駅。飯山高校北キャンパス(旧飯山北高校)がすぐ近くなので生徒の利用が多い

駅舎が新しくなった北飯山駅。飯山高校北キャンパス(旧飯山北高校)がすぐ近くなので生徒の利用が多い

狭い幅員の共栄館踏切。かつては自動車も通れたそうだが…

狭い幅員の共栄館踏切。かつては自動車も通れたそうだが…

日本聖公会の飯山復活教会は85年前に竣工した由緒ある建物。信徒たちが大切に維持している

日本聖公会の飯山復活教会は85年前に竣工した由緒ある建物。信徒たちが大切に維持している

今回紹介した踏切周辺の地図

今回紹介した踏切周辺の地図

●元映画館と築85年のキリスト教会

 踏切のすぐ近くの電柱にもNTTの「共栄館支」の札があるので、やはり何か目印になるような建物があったに違いない。踏切から80メートルほどで旧飯山街道に出るのだが、その角でプランターに水やりしていた男性に共栄館について聞いてみた。すると人選がぴったりだったようで、終戦直後にみんなで出資して作った映画館の名が「共栄館」だったと教えてくれた。戦争がようやく終わって、心おきなく映画が見られるようになった時代の幸せを噛みしめての開業だったのだろう。

 場所はまさに踏切のすぐ東側で、赤いトタン板に覆われた建物が今も残っている。今は別の会社の事務所か何かに使われているが、小ぶりながら、なるほどそう言われれば映画館に見えなくもない。思えば少し前までは、ちょっとした町なら必ず映画館があったものだが、平成に入る頃から急速に減って、今ではショッピングセンター併設のシネコンのようなものばかり増えている。

 この男性は通りに面した赤のれん用品店の社長・我妻(わがつま)英雄さん。昭和7(1932)年のお生まれで85歳というがまだまだお元気だ。旧制飯山中学校に入って新制飯山北高校で卒業したというから、名古屋の明倫中学校に入って明和高校を出た私の亡父と同い年で親近感を抱く。

 いろいろとお話ししているうち、我妻さんが管理している教会を見学しないかと誘われた。突然訪れた私のためにわざわざお店を閉め、「教会にいます」と札を掲げて颯爽と自転車に乗る。早足でついて行くと、すぐ目と鼻の先に木造のモダンな建築の教会があった。日本聖公会の飯山復活教会で、木立に囲まれて実に落ち着いたいい雰囲気を醸し出している。優れた建築は周囲に気品を与えるということを実感した。

 鍵を開けて中へ案内されたので入ると、きれいに磨かれた祭壇とベンチが並んでいる。床は畳敷きだから、当初は正座して礼拝に臨んだのだろうか。教会が竣功したのを記念した写真も見せてくれた。聖公会だから英国人だろうか、外国人牧師さんの他は和服の人たちが大半で、男性は背広姿が数人混じっている。日付は「1932年(昭和7年10月18日)」とあり、和服のお母さんに抱かれた赤ちゃんが、まだ生後3カ月の我妻さんだという。写真に見える教会の外観は見たところまったく同じで、この85年間に建物がいかに大切にされてきたかをうかがわせる。由緒ありそうなオルガンもあった。

 踏切を訪ねてみたら、商店街のみんなの熱意がひとつになった共栄館の話をうかがうことができ、さらに歴代の信者さんたちの思いにより連綿と守り続けられてきた教会を拝むこともできた。教会でいただいたお手製ラズベリー・ジャムを味わいつつ、「過去への道標」となった踏切の奥深さを改めて感じた次第である。

今尾恵介(いまお・けいすけ)
1959年神奈川県生まれ。地図研究家。明治大学文学部中退。中学生の頃から国土地理院発行の地形図や時刻表を眺めるのが趣味だった。音楽出版社勤務を経て、1991年にフリーランサーとして独立。音楽出版社勤務を経て、1991年より執筆業を開始。地図や地形図の著作を主に手がけるほか、地名や鉄道にも造詣が深い。主な著書に、『地図で読む戦争の時代』『地図と鉄道省文書で読む私鉄の歩み』(白水社)、『鉄道でゆく凸凹地形の旅』(朝日新書)など多数。現在(一財)日本地図センター客員研究員、(一財)地図情報センター評議員、日本地図学会「地図と地名」専門部会主査


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今尾恵介

今尾恵介(いまお・けいすけ)/1959年神奈川県生まれ。地図研究家。明治大学文学部中退。中学生の頃から国土地理院発行の地形図や時刻表を眺めるのが趣味だった。音楽出版社勤務を経て、1991年にフリーランサーとして独立。音楽出版社勤務を経て、1991年より執筆業を開始。地図や地形図の著作を主に手がけるほか、地名や鉄道にも造詣が深い。主な著書に、『地図で読む戦争の時代』『地図と鉄道省文書で読む私鉄の歩み』(白水社)、『鉄道でゆく凸凹地形の旅』(朝日新書)など多数。現在(一財)日本地図センター客員研究員、(一財)地図情報センター評議員、日本地図学会「地図と地名」専門部会主査

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