第3のメリットは、責任逃れのがしやすさである。役人の答弁を読んでいても、時には問題が起きることがある。官僚は自分たちの利権を守るためには嘘をつくこともあるので、そういう場合にはそれが原因で国会の審議が止まったりすることがある。しかし、その場合でも、総理や党の国会対策関係者との関係では、「官僚が作った答弁でひどい目に遭いました。申し訳ありません」と言えば一応の言い訳になる。一方、官僚の答弁と違うことを言って問題になった時はこの言い訳は通じない。

 第4のメリットは、官僚の協力が得られること。官僚の答弁を読んで問題になった時は、官僚が必死で大臣を守ってくれる。一方、官僚の答弁を無視して問題が起きた時は、官僚も人間だから、「なんであんな馬鹿なことを言ったんだ」となり、官僚から冷たい目で見られ、事後処理の対応でも本気度が下がる。官僚の書いた答弁で問題が起きた時はその逆だ。さらに、そういう場合に、官僚の責任を問うようなことを言わず、「いや、いいんだよ。しっかり後の対応をしてくれよ」と寛容な態度を示せれば、上出来。「あの大臣は大物だ」「人間ができている」という評価が定着し、将来にわたってその役所の幹部とは良い関係が作れるのだ。

 どんな大臣も、最初は、自分の言葉で答弁しようと思うのだが、「答弁棒読み」に以上の4つのメリットがあるため、逆に言えば、自分の言葉で失敗した時の大きなデメリットを考えた時、どうしても、答弁書をそのまま読んだ方が「楽だな」「安全だな」という誘惑に負けて「棒読み」が増えることになる。大臣も普通の人間。「弱い」人たちだということなのだ。

 そして、そういう大臣の弱みを巧みに利用して、官僚たちは、「素人」大臣を自分たちの利益代弁のための答弁書「棒読み大臣」として活用するのである。江崎大臣の失言は、こうした政治家と官僚の関係を端的に示す格好の事例だったということだ。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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